就職氷河期世代を再生産してはいけない 太田聡一
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1997年の金融危機から25年。当時の関係者は「あの時が日本経済の転換点だった」と一様に口をそろえる。大型倒産の連続で自殺者は急増、非正規雇用の増加と就職氷河期世代の誕生は、生産性の低迷と少子化の両面から、日本経済の復活を阻んでいる。低賃金、低スキルに放置される「不運な人々」が活躍できる場を作るとともに、今後の不況期への備えが急務だ。
「学卒時で長期不況」が及ぼす悪影響
1997年11月の金融危機以降、日本の労働市場は急速に悪化していった。98年前半には、求人が減少し、解雇や倒産に伴う離職失業者や求職者が大幅に増加した結果、有効求人倍率が過去最低の水準に低下した。
それに伴い、完全失業率もこれまでにない上昇幅で急激に上昇。そして、雇用者数が初めて前年より減少した。とりわけ、建設業および製造業での減少が目立った。このような危機的な状況下で、若者の就職状況も一気に悪化し、15〜24歳の若年失業率は97年の7.7%から9.1%に急上昇した。
その後も高水準を続け、ようやく金融危機時の7.7%の水準に戻るのは、97年から10年たった2007年であった。この間に学校を卒業した人々は、未曽有の就職難に直面した「就職氷河期世代」の中核として、その後も厳しい雇用環境に置かれることとなった。
急増した「新卒無業者」
まず、学卒時に就職できない「新卒無業」の人々が多数生じた。さらには、正社員になれず非正社員にとどまる、いわゆる「不本意非正規」の人々も急増した。最大の問題は、この特定世代の労働市場での不遇が、長期に持続してしまったことである。
19年に総務省統計局が出したリポートによると、18年時点において、氷河期世代とみなされる35〜44歳層の人々のうち、不本意非正規雇用者は50万人、家事や通学をしていない非労働力人口が39万人に達していた。
その中には、無業や非正規の仕事を続けたために経済的な安定が図れず、結婚などの家族形成の面でも不利になった人も少なくない。現在も政府は氷河期世代の人々へのサポートを重要な政策課題に掲げており、この問題の深刻さを示している。
比較的安定的な雇用を得ることができた氷河期世代の人々も、それ以前の世代と比べると現在に至るまで平均賃金が低下している。一つの理由は、氷河期世代はそれ以前の世代に比べて大企業に勤務している割合が小さいことがある。これは、長期不況期に大企業が急激に採用を縮小したために、以前よりも多くの新卒者が中小企業に採用されたためである。
中小企業から大企業への転職可能性は小さいので、中小企業で最初の職を得た人々は、中小企業部門にとどまる傾向が強い。日本では企業規模による賃金格差が大きいこともあり、氷河期世代の平均賃金はそれ以前の世代に比べて相当程度低くなってしまった。
それに加えて、無業の期間がある人が少なくないことや、不本意就職のための…
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週刊エコノミスト
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