資源・エネルギー

炭素が新たな「経営資源」になるのは数年以内 奈須野太

パリ協定が採択された国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)の会場(2015年12月8日)
パリ協定が採択された国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)の会場(2015年12月8日)

 先行する欧州に遅れないよう、日本もカーボンプライシングの政策を早急に打ち出す必要がある。

カーボンプライシングの世界

 地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」では、今世紀後半までに、温室効果ガスの人為的排出量と、植林・間伐や大気中からの二酸化炭素(CO₂)の回収などによる吸収量を均衡させ、産業革命以来の気温の上昇を2度以下にとどめることを目標としている。しかし、たとえそれに成功したとしても、島嶼(とうしょ)国には海面上昇による被害が生じてしまうため、まずは気温上昇を1.5度にすることに向けて努力することが合意されている。そのためには2050年までに両方を均衡させることが必要とされる。

 人為的排出量と吸収量の均衡をグローバルに実現するメカニズムとしては、認証された吸収量で裏付けられた「カーボンクレジット」(排出権)を発行して、排出者に購入させ、オフセット(相殺)を義務付けることがまず考えられる。この場合、ネット(相殺)でゼロにすればよく、排出量そのものがゼロでないことがポイントとなる。

 温室効果ガスの排出が有料化され、その削減や吸収に必要な対策コストが経済活動に上乗せされることになれば、企業は経済的な負担を回避するために排出削減に取り組もうとする。このような政策を「カーボンプライシング」(炭素の値付け)という。クレジットを購入してオフセットしない限り、温室効果ガスを排出できず、経済活動を行えない。そうなれば、資本や労働に加えて、炭素が新たな「経営資源」になる。

政策で先行する欧州

 では、炭素が経営資源になるのは、カーボンニュートラルが実現する50年以降の話かというと、そうではない。数年以内にその時代がやってくる。それはどういうことか。

 排出削減が進むに従って、先行して対策コストを負担した国・企業と、遅れている国・企業の間で、競争力格差が生じる恐れがある。カーボンニュートラルへの移行期間に、遅れている国・企業が競争優位に立てば、対策の足を引っ張りかねない。

 格差を是正するメカニズムとして、国内では排出量に上限を設けて過不足を枠の取引で調整する「排出量取引」がある。また、国境では、製品当たりの排出量に応じて関税を課す「炭素国境調整措置」がある。

 実際に欧州では、05年から排出量取引「EU-ETS」が義務化されており、23年1月からは新たに炭素国境調整措置「CBAM」も導入される予定だ。CBAMの対象は鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、ポリマーなど基礎素材だが、これらを使用した製品への拡大が検討されている。狙いは自動車・自動車部品だろう。雇用に直結するためだ。

 CBAMの導入当初は、通関時に製品ごとの排出量を申告すればよいことになっているが、27年には申告に応じて関税が賦課される予定だ。ただし、欧州と同等のカーボンプライスを負担していると認められた国の製品であれば、税額を軽減または免除することも可能とされる。

排出量取引が軸に

 こうした欧州の動きを受けて、各国ともに関税軽減・免除を目指し、競って同様の措置を導入するだろう。欧州もそれを強く期待している。このことで…

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週刊エコノミスト

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