経済・企業 止まらない円安
内外金利差の円売り本番はこれからだ 唐鎌大輔
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円は9月に年初から35円超も下落し、歴史的な大相場となった。それでも投機マネーの参入余地はまだ残されており、今後、円安が加速する可能性が高い。
9月の円安は「投機筋による仕掛け的な動き」ではなかった
9月7日、ドル・円相場は一時、1ドル=144.99円まで円安・ドル高が進んだ。これで年初来の値幅は35円超(円安)に達した。「円安の年」としては、1985年のプラザ合意以降、最大の値幅である(それまでは89年の28.45円が最大)。
理由はどうあれ、2022年が日本円にとって歴史的な大相場になったことは間違いない。足元の円売りの背景は、さまざまな理由が考えられるが、同週の欧州中央銀行(ECB)政策理事会における利上げ幅が0.75%ポイントになることを筆頭に、内外金利差の拡大が改めてクローズアップされたという解説も見受けられる。
円は世界で唯一のマイナス金利通貨
もっとも内外金利差がテーマになるのは、むしろこれからが本番であろう。9月22日にはスイス国立銀行(SNB)が0.75%ポイントの利上げに踏み切り、ついにマイナス金利を脱却した。これにより円は「世界で唯一のマイナス金利通貨」に成り下がっている。
金融政策運営やこれに付随する内外金利差は、これまでも円売りに寄与していたとは思われるが、本格的なテーマになるとすれば、これからが本番ではないだろうか。世界の中央銀行は、陰に陽に通貨高競争の機運を強めている。
実際、インフレ抑制には通貨高が望ましいことを米連邦準備制度理事会(FRB)もECBもSNBも情報発信の中で言及している。そうした中、通貨安(円安)を「経済全体にとってプラス」と言い続ける中央銀行があれば、当然、通貨売りの案分はそこへ集中しやすくなる。
本来、通貨安は外貨獲得の武器となり得るので、需給面から修正がいずれ入るようになる。しかし、製造業の生産拠点は10年前から海外移管が進んでおり、円安に対する輸出数量の反応はほとんど期待できないのは周知の通りである。
サービス輸出(旅行収支の受け取り=インバウンド〈訪日客〉)は年間3兆円近くのポテンシャルがあるが、諸外国対比で厳格過ぎる防疫政策の下で、果たしてどれほどの復元が期待できるのか。大幅に拡大した貿易赤字を打ち消すには至らないだろう。
結局、今回の円売りは巷説(こうせつ)指摘されやすい投機筋による仕掛け的な動きではなく、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に沿った動きである。進むべき方向に動いているものを政策当局として是認している以上、止まる理由はない。
投機筋に円売り余力あり
「巷説指摘されやすい投機筋による仕掛け的な動き」ではないというのは、IMM通貨先物取引における円のネットポジション(実質的な売り買い状況)を見ればよくわかる。
図1に示されるように、基本的に投機筋の円の持ち高はネットでショート(売り)に傾斜しているものの、その規模を見ると興味深いことがわかる。1ドル=140円台に突入した9月初頭時点の円ショートポジションの規模はピークだった春(4~5月)と比較して半分程度である。いわゆる内外金利差が本格的にテーマとなった場合、こうした足の速いマネーが参入してくる余地があることは知っておきたい。
本稿執筆時点ではデータが出そろわないものの、9月初頭の1ドル=140~144円の急激な動きは輸入企業などの…
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週刊エコノミスト
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