円安は国力低下の現れ 円買い介入も効果薄く 荒武秀至
有料記事
実質的に50年前の水準まで円の価値が低下した背景には、経済力の長期低迷がある。「円買い介入」といった、その場しのぎの策ではどうにもならない。
米国の強力な利上げはまだ続く
米連邦準備制度理事会(FRB)は9月21日、政策金利のフェデラルファンド(FF)金利を0.75%引き上げ、3.0~3.25%とした。3月からの累計利上げ幅は3%に及ぶが、パウエルFRB議長は記者会見で「(7月の個人消費物価指数の前年同月比6.3%から)2%にインフレ率を抑制できる水準まで政策金利を引き上げる。しかし、まだその水準にはなく、抑制的といえる領域の最低水準にきたところだ」と、手綱を緩める考えはない。
今回発表された金利見通しの中央値は2022年末までに追加で1.25%、23年にも0.25%の利上げが示され、23年末の中央値は4.625%に高まった。この金利見通しに従えば、次回11月会合で0.75%、12月会合で0.5%、23年2月会合で0.25%の利上げが想定されるが、すべては今後の物価統計次第である。
過去のFF金利とインフレ率の関係は、FF金利がインフレ率を1.4%上回るのに対し(1960年以降の平均)、現在はFF金利が3.125%なので、インフレ率(個人消費物価指数)6.3%を大幅に下回っている。早急にインフレ率を超える水準までFF金利を引き上げたいはずだ。
70年代の教訓
だが、これだけ大幅な利上げをすると、景気後退リスクが高まる。経験則では、年間の累計利上げ幅が2%を超えると、1年後には景気後退になっている。今回は、来年2月にFF金利を4.625%まで引き上げると、年間累計利上げ幅が4.625%となり、危険な2%をはるかに超える。来年後半から24年にかけ景気後退は避けられないだろう。今回の記者会見でもパウエル議長は「この政策過程で、景気後退になるかは誰にも分からない」と、弱気な本音もみせた。にもかかわらず、FRBが利上げを急ぐ理由は三つ。
第一にインフレを早期に沈静化できれば、軽微な景気後退で済むところが、高インフレが長引くと人々のインフレ心理が定着、インフレがさらに加速し景気後退も深く長期化するからだ。第二は、労働市場がタイトで賃上げ圧力が強いことに加え、求人が多いため景気が減速しても求人が減るだけで、失業率が急上昇するとは考えていないからだ。実際、求人数7月は1123万件に対し、失業者8月は601万人。全ての失業者が職に就いても求人を満たせないほど、労働市場は引き締まっている。第三は「同じ轍(てつ)を踏まない」こと。パウエル議長は「歴史は拙速な金融緩和に強い警鐘を鳴らしている」と発言し、70年代の石油危機で高インフレと深刻な景気後退に陥った二の舞いにならないことを誓っている。
1970年1月から78年3月までFRB議長を務めたアーサー・バーンズ氏は、ニクソン政権に忖度(そんたく)して利上げをちゅうちょした上、インフレが十分に抑制されていないのに利下げへ転じたことで、高インフレと景気後退を招いた。彼の在任中と重なる2度の景気後退、すなわち69年12月から70年11月と、73年11月から75年3月は、インフレ抑制の金融引き締めが後手に回ったことが原因だった。
とりわけ後者の景気後退はひどい。公定歩合(当時の政策金利)が8%で、個人消費物価指数の11.5%まで金利が…
残り1554文字(全文2954文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める