経済・企業

千葉銀「TSUBASAアライアンス」のすごみ 吉沢亮二

 千葉銀行が取り組む広域連携は、収益力向上を目指す地銀の新たな事業モデルとなりそうだ。

事業モデルになりうる地銀の”相談役”

 地銀を取り巻く経営環境の厳しさが、取り沙汰されて久しい。

 しかし、詳細にみると、ごく少数の地銀は、3メガ銀行と伍(ご)する収益性を達成しつつ、他行の運営上の諸問題について適切な助言や提案をすることで、自行と他行の収益向上に寄与する動きがみられる。千葉銀行の主導する「TSUBASA(つばさ)アライアンス(以下、つばさ)」の現状は、この「相談役的な役割」の萌芽(ほうが)であり、大規模地銀の新たな事業モデルの一つになるかもしれない。

大手行に負けない経営効率

 助言者側に必要な要件としては、助言する業務内容に一定の実績や知見を持つことが挙げられよう。このため、まず、千葉銀の経費率やROA(総資産利益率)などの収益性をみてみたい。

 経費率をROAより先に挙げたのは、民間企業の競争力を左右する重要な要素の一つには、経費構造があるからだ。銀行に限らず全ての業種において、各社の経費構造が自社のとれる戦略を規定する──といっても過言ではない。

 表1は、千葉銀の経費率を、3メガ銀行の加重平均値や大規模リテール行のりそな銀行、また、総資産規模で上位3社の地銀や地銀62行の加重平均値と比べたものだ。経費率(営業経費÷業務粗利益)は、収益に対してどれだけ経費が掛かるかを示す指標であり、経営効率を示すものである(低いほど良好)。比較地銀を3行としたのは、3行は単体の総資産規模が20兆円前後で拮抗(きっこう)しており、また、4番手行は総資産規模(15兆円)やROAの観点で、上位3行とやや差があるからだ。

 表1をみると、3メガ銀行の経費率が高いこと、また、経営基盤に恵まれる上位地銀3行の経費率が低いことがわかる(ROAも大手行に比べて劣後していない)。ちなみに、50%前後の経費率であれば、国際的にみても商業銀行としては、低い経費率(効率的な経営状況)に属する。

統合と変わらない効果

 広域地銀連携であるつばさには、現在10の地銀が参加している(表2)。そして各行は、各地区の最大規模の銀行であり、10社の総資産額は96兆円(2022年3月末)と、りそなホールディングス(HD)の78兆円(同)を上回る規模に達する。

 そして、千葉銀の主導するつばさの現在の連携内容は、その源流(06年発足)である基幹システムの共同化にとどまらず、キャッシュレス決済プラットフォームやDX(デジタルトランスフォーメーション)などのフィンテック(金融とITの融合)業務、さらには人材育成や各種重要課題(マネーロンダリング〈資金洗浄〉、ESG〈環境・社会・企業統治〉)などの銀行業務の根源にかかわる情報の集約・活用まで、幅広い連携がなされている。

 つまり、つばさは、当初のシステム業務の連携を超え、各行に共通する重要課題の対応や業務の集約を目指しており、各行が先行開発したサービスや機能を共有して横展開することを目指している。この実質的な経済効果は、経営統合と変わらないといえるかもしれない(ただし、経営統合ではないので、提携関係はより流動的になる可能性はあるが)。

 一般に、広域連携の効果には、大別して収益増につながるものと、コスト削減につながるものがある。一方で、つばさの全般的な連携効果の数値は開示されていない。このため、本稿では収益増に寄与する役務取引等利益、そのなかでも、千葉銀が決算説明などで連携効果があるとしている、役務取引等利益のうち開示のあるシンジケート・ローン(幹事金融機関が複数の金融機関…

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週刊エコノミスト

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