暗号資産 価格急騰で国税が狙う無申告 坂本新
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NFTと呼ばれるデジタル資産の取引も広がる中、国税は海外の税務当局との情報交換などにより、取引情報の把握を進めつつある。>>特集「狭まる包囲網 税務調査」はこちら
「エイダ」の次は「ソラナ」か
暗号資産(仮想通貨)を巡る税務調査は約3年前に始まった。IT分野の研修を受けた情報技術専門官、通称「情技官」を中心に大阪国税局から始まり、現在では東京や九州でも調査が進んでいるようだ。昨年は暗号資産「エイダ」(ADA)で利益を上げた個人が国税当局から多額の申告漏れを指摘されたことが報じられたが、今後は価格が一時、大幅に値上がりした「ソラナ」(SOL)が狙われる可能性がある。
暗号資産の取引口座数は急増している。株式の取引口座数が約3000万口座とされるのに対し、暗号資産の口座数は約637万口座(日本暗号資産取引業協会まとめ、22年9月時点)に上る。株式の取引口座数の5分の1に相当する規模まで増え、月間の取引額が1兆円超となることも珍しくない。しかし、暗号資産の取引で得た所得を申告している人は少なく、これに国税当局は目を付けている。
そもそも、暗号資産の売買に伴って得た利益は、所得税法上では原則として「雑所得」として扱われ、雑所得の合計額が年間20万円を超える場合は確定申告が必要になる。給与所得など他の所得と合算する総合課税で、利益の金額次第では所得税の最高税率(45%)が課されることもある。国税当局から申告漏れや無申告を指摘されれば、加算税というペナルティーも科される。
暗号資産で得た所得について、国税当局は年々捕捉を強化し、積極的な税務調査を展開している。その一例が、暗号資産の取引業者に対する「支払調書」の導入だ。顧客との暗号資産の証拠金取引の記録を税務署に提出させる制度で、昨年から提出が義務化された。また、取引業者には任意での情報提供も求めており、暗号資産で得た利益に国税は目を光らせている。
国税庁によれば2020事務年度(20年7月〜21年6月)、シェアリングエコノミーなど新しい分野の経済活動に対する所得税の税務調査で、調査件数1071件のうち暗号資産取引を含む「ネットトレード」が432件と40.3%を占めた。1件当たりの申告漏れ所得金額も、ネットトレードが2456万円と最も多くなっている。
SNSで芋づる式に
一つの税務調査が発端となり、芋づる式に申告漏れを指摘されるケースも増えている。暗号資産の取引は友人や勤務先のつながりなど、SNS(交流サイト)上で広がることが多い。逆に言えば、国税側はそうしたつながりを追うことで、誰が暗号資産を取引しているかを把握することが可能になる。17年に上場後、価格が急騰したエイダは、そうした側面を持ち合わせた暗号資産でもあった。
筆者の元には今、デジタル資産(NFT=非代替性トークン)絡みの相談が増えている。NFTはブロックチェーン技術を使った偽造不可能なデジタル資産で、絵画作品などとして使われていることが知られるが、現在、爆発的に流行しているのはゲーム関連だ。ゲームのキャラクターや武器、コスチュームなどのほか、仮想空間内の土…
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週刊エコノミスト
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