インボイスで大混乱 想定事例集 菊池純
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消費税の仕組みを大きく変えるインボイス制度の導入。制度開始で予想される現場の混乱について税理士が分析する。>>特集「狭まる包囲網 税務調査」はこちら
想定事例1 経理の仕分け事務が“爆発”
インボイス制度が導入されると、消費税の仕入れ税額控除(課税事業者が消費税の納付額を計算するために、売り上げにかかった税額から仕入れにかかった税額を除くこと)の仕組みが大きく変わる。これまで日本は「帳簿方式」を取っており、事業者は帳簿と請求書などを保存しておけば、仕入れ税額控除が認められた。制度導入後は、仕入れ先の業者から受け取った適格請求書(インボイス)の保存が仕入れ税額控除の要件となる。経理業務が増大し、事業者に多大な負担が生じることが予想される。
課税事業者は、取引先から請求書や領収書などを受け取る都度、課税事業者からの仕入れ(適格請求書)と、免税事業者からの仕入れ(請求書など)に仕分ける作業が生じる。適格請求書に記載の税額を本体価格から区分して、「10%」と「軽減税率8%」に整理し、積み上げる作業も必要だ。受け取った請求書などに登録番号が記載されているかを確認し、誤りや偽造がないか、国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で確認する手間も生じる。
一方、インボイスの発行者は発行の都度、写しの作成・保存が求められる。制度導入で、発行する請求書などの記載事項や様式を変更するため、システムの入れ替え・改修が必要になる可能性もある。導入時には、これまで個々の品目、商品ごとに行っていた請求書の消費税額の端数処理を、「10%」「8%」の税額ごとにまとめて行うルール変更もあり、対応していない請求書の再発行などで混乱する恐れがある。
想定事例2 振込手数料にも適格請求書
従来、支払金額が3万円未満の取引については、請求書や領収書がなくても、帳簿への記載だけで消費税の仕入れ税額控除が認められていた。しかし、インボイス制度導入後は、この特例は原則認められなくなる。
問題になりそうな事例の一つは、銀行の振込手数料を巡る手間の増加だ。売り上げの入金を受ける場合に、銀行の振込手数料分を売り手側が持ち、手数料分を差し引いて振り込みを受けるようなケースはよくある。売り手は振込手数料を「支払手数料」として、課税売り上げから控除される「課税仕入れ」で処理する。
こうした場合、経理上は売り手が負担した振込手数料を、振り込んだ買い手が立て替えたという扱いになる。振り込まれた売り手側は、金融機関から受け取った振り込みサービスについての適格請求書と立て替え金精算書の二つの書類を買い手側から受け取り、保存することで、ようやく仕入れ税額控除が行えるようになる。
売り手が振込手数料を負担して、請求額と振込額の差額を値引きとして処理する方法もあるが、その場合には売り手が値引きを行ったという適格返還請求書を買い手に交…
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週刊エコノミスト
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