財政インフレには80年代のボルカー流引き締めと緊縮財政が不可避 河野龍太郎
世界的に進むインフレが、各国財政の持続性への疑義に根ざすものなら、相当手強い。各国民に覚悟を促す警鐘だ。河野龍太郎・BNPパリバ証券チーフエコノミストは日本のインフレも財政インフレに転じるリスクを指摘する。(聞き手=浜條元保/荒木涼子/斎藤信世・編集部)
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── 欧米や新興国を含めたグローバルなインフレ(物価上昇)の要因として、コロナ禍による供給制約やペントアップ(繰り越し)需要だけでなく、財政の持続性に対する市場の不信(金利上昇圧力)に基づく「財政インフレ」になぜ、注目するようになったか。
■8月の米ジャクソンホール会議(金融・経済シンポジウム)で、経済学者のビアンキとメロージが指摘したのがきっかけだ。仮に米国のインフレが財政インフレによるものなら、グローバルインフレは簡単には収まらないかもしれない。現在のインフレは、供給制約やコロナ禍後の繰り越し需要、ウクライナ戦争だけが原因ではなく、各国がコロナ対策として大規模な財政・金融政策を行ったことも大きく影響したというのがコンセンサスになっていると思う。一言でいえば、供給制約だけでなく需要ショックも影響したということだ。ただ、財政インフレの場合、中央銀行の利上げで景気を悪化させれば、インフレは多少抑えることはできても、インフレの沈静化に決定的に重要になるのは、中銀の強い物価安定へのコミットメントではなく、市場からの財政に対する信認回復が必要だ。
レーガノミクス
── 過去に財政インフレだったことはあるか。
■1960年代後半から80年代初頭にかけて、そうだった可能性がある。65年以降、ジョンソン政権(民主党)は、貧困撲滅と公民権の確立を骨子とした「偉大なる社会」政策に伴う歳出増や、ベトナム戦争の戦費がかさみ、財政支出が加速。その後のニクソン政権(共和党)でも、拡張的な財政政策が行われた。インフレは上昇していたが、再選を強く意識したニクソン大統領の下、政治圧力でFRB(米連邦準備制度理事会)は財政ファイナンス(穴埋め)のための利下げを余儀なくされた。73年10月の第4次中東戦争をきっかけにアラブ諸国が原油価格を大幅に引き上げ、世界的なインフレ高騰(第1次オイルショック)につながったが、それは単に供給制約ではない。拡張的な財政政策と緩和的な金融政策が継続されたという点で、需要ショックの性質が強く、財政インフレの可能性も否定できなかった。その後も、景気が悪くなると、インフレが高くても、財政政策と金融緩和が行われ、インフレは高止まりした。
── 79年8月にFRB議長に就任したボルカーによる強力な金融引き締めが、高いインフレを抑え込んだといわれる。
■当時、2桁のインフレと景気低迷のスタグフレーションの終結を託されたのが、ボルカーだった。マネタリーベース(中銀が供給する資金量)をコント…
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週刊エコノミスト
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