労働分配率が上がる見込み薄く、実質賃金の目減りは続く 山田久
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2023年の名目賃金は上がっても物価上昇には見合わないものになりそうだ。
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日本で労働者の賃金が上がるメカニズムは大きく分けて二つある。
一つは労働需給が逼迫(ひっぱく)し、使用者が「賃金を上げないと働き手が集まらない」と感じて上げることだ。現在、国内企業の業績は概して良く、設備投資も堅調だ。総人口が減っている上、政府が新型コロナウイルスの水際対策として外国人の入国を制限してきたことから飲食業などの現場を担ってきた外国人が不足している。そのような事情からパートやアルバイトが働く現場では人手不足が深刻で、賃金は上がっている。今後、よほど大不況にならない限り、賃金は上がっていくだろう。
もう一つは労働組合と使用者側が交渉する春闘で前年の物価動向を参考にして正社員の賃金を上げる方法だ。労組がない中小企業も春闘の結果の影響を大なり小なり受ける。2022年の物価がかなり上がったことから、連合は23年春闘で定期昇給分を含めて5%程度の賃上げ目標を掲げ、経団連も会員企業に賃上げを働きかけるとしており、正社員の賃金は上がる方向にある。ただ、生活者にとっては、賃金の上昇率がインフレ率に届かなければ、生活水準は下がってしまう。
理屈の上では、インフレを加味した実質賃金は労働生産性、企業の労働分配率、交易条件の3要素で決まる。「日本の労働生産性は上がっていない」とよく聞くが、実はこれは誤解だ。経済協力開発機構(OECD)のデータを用いて先進7カ国を比べると、日本の労働生産性は00〜20年の間、20%上昇した。米国36%、カナダ29%、ドイツ21%より低いが、フランス19%、英国18%、イタリア5%より高い。10〜20年で比較しても同様の結果だ。
日本の実質賃金はなぜ上がっていないのか。理由は二つある。
一つは企業の労働分配率がこれまで緩やかに下がる傾向にあったことだ(図)。現在、製造業を中心に大企業の利益水準は高い。そのような企業が23年、利益の増加分を使って本気になって労働分配率を上げるかどうかは、今のところ見えない。
交易条件は悪化
もう一つは交易条件が悪化したことだ。交易条件とは「輸出物価÷輸入物価」で計算され、輸入価格に対して輸出価格が安くなると悪化する。海外との貿易によって国内の富が流出しているという意味だ。22年は円安が進んだ上、資源価…
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週刊エコノミスト
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