経済・企業

日本への中国脱出者 ジャック・マー氏など富裕層含め1000人超か 安田峰俊

2022年春ごろから東京に住んでいるとされるジャック・マー氏(2019年12月6日撮影)
2022年春ごろから東京に住んでいるとされるジャック・マー氏(2019年12月6日撮影)

 習近平の「ゼロコロナ」政策は既得権益層を幻滅させ、在留資格を得やすい日本への脱出を後押しした。

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 中国に「流行語大賞」があるとすれば、2022年の候補に「潤」が入るに違いない。ピンイン(中国語の発音記号)ではrunと表記し、「逃げる」を意味する英単語と同じだ。つまり、本義とは関係なく「中国を脱出する」という意味で今年に入って使われるようになった。「潤」に踏み切った人のことをここでは「脱出者」と呼ぶことにしたい。

 先見の明がある人は、「習近平国家主席の任期は3期目も続く」という見通しが強まった17年ごろから、資産を国外に移すなど脱出に向けた準備をしていた。いろいろな職業の脱出者がいるが、ジャーナリストや弁護士は19年ごろ、言論の自由に対する不満から日本に移住し始めたようだ。

 富裕層の脱出者が顕著に増えた直接的な引き金は22年春の上海ロックダウン(都市封鎖)だ。まともな判断能力を持つ人たちは、役人があまりに非科学的な「ゼロコロナ」政策を強化する動機は習指導部への忖度(そんたく)と気づいた。そして上海の様子を見た北京、広州、深圳(しんせん)など大都市に住む既得権益層も「中国は一皮むくと人権が尊重されなくなる国だ」と感じるようになった。中国は人権が制限された国だと思うかもしれないが、お金や人脈さえあれば、例外的な扱いを受けられる社会でもある。

 ところが、ゼロコロナ政策の下、富裕層であってもプラダのバッグに消毒液を散布され、炎天下でPCR検査のため行列させられ、陽性になれば、トイレが汚くプライバシーも守られない隔離病棟に収容される。自分は特権的な身分だと思っていたが、強烈な政治的圧迫の下では一般人民と同じ目に遭うことに気づいた。

 筆者が22年に会った脱出者は金持ちからジャーナリストまでさまざまだ。一番有名なのは、国営放送局「中央電視台」の著名記者だった王志安氏。例えるなら池上彰氏のような存在だ。中国金融大手の部長クラスの女性にも会った。彼女は「習主席の任期が3期目に入ることで、経済運営の透明性が一段と乏しくなり、先行きがますます見えなくなったことが出国の大きな理由だ」と話した。

資産100億円規模の人も

 筆者が取材した関西の華人系不動産業者は4月ごろから9月にかけて、脱出者に自宅用物件を毎月5軒ぐらい売ったと話した。この業者だけで計30軒ほどにもなる。1世帯3人としても90人。関西では脱出者需要で潤う業者をもう1社取材した。ほかにも類似の業者はいくつもあるはずで、東京の同業他社はもっと多く売っただろう。それらの話を総合すると、日本に移住した脱出者の総数は19年以降で少なくとも1000人を超え、100億円規模の資産を持つ人もごろごろいる。

 中国の電子商取引最大手アリババグループの創業者、馬雲(ジャック・マー)氏も半年近く東京都心に…

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