利上げと賃上げの日本で注目の「無視された銘柄」とは 芳賀沼千里
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長期的に日本が標準的な普通の経済に向かう過程で、取るべき投資スタイルとは──。
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2022年、世界の株式・債券市場は想定外のインフレ(物価上昇)と主要国の金融引き締めを受けて大きく揺れた。現在、投資家の主な関心は金融引き締めが景気に与える影響に移っている。同時に、看過できないのは日本におけるインフレの蓋然(がいぜん)性である。日本ではガソリンや食料品の価格上昇は話題になるが、消費者物価上昇率は前年比プラス3%台後半であり、欧米主要国に比べて明らかに低い。ただし、日本経済は緩やかなインフレに向かう可能性が出始めている。
企業と消費者の姿勢に変化
まず、企業の姿勢に変化がみられる。日銀「短観」(22年12月調査)では、販売価格DIがプラス32と1980年以降で最高水準に達した。帝国データバンクによると、22年8月時点で年初から値上げ回数は「0回」の企業が33.5%であるが、「2回」以上の値上げを行った企業が計25.8%に達した。エネルギー・原材料価格の大幅な上昇と急速な円安進展を受け、企業が自助努力で対応できないこと、コロナ禍の供給制約などにより国内でも製品の供給過剰感が少ないことを背景に、値上げに対する企業の抵抗感が低くなっている。
消費者の姿勢にも変化が出ている。渡辺努東京大学教授の調査によると、「なじみの店でなじみの商品の値段が10%上がったときどうするか」という質問に対して、「他店に移る」という回答の割合が日本は21年8月に57%であったが、22年5月には44%に低下し、「その店でそのまま買う(=値上げを受け入れる)」という回答が56%となり、欧米とほぼ同じ水準に達した。消費者物価指数の構成品目をみると、値上がり品目数の構成比は78.9%に達しており(10月)、値下がり品目数を大きく上回る。この状況は00年代と明確に異なる。
さらに、賃金が上昇する可能性がある。過去四半世紀、大企業は年功的な処遇・賃金体系を相当に見直してきた。この間、企業は女性や高齢者を中心に増加した非正規雇用者を活用し、賃金を抑制した側面があるが、この方法は限界に近付きつつあるだろう。生産年齢人口(15〜64歳)の女性を対象とした日本の労働参加率は00年の59.6%から21年に73.3%に上昇した。この値はドイツや英国を下回るが、米国・フランスを上回る。結婚を機に家庭に入って子育てに専念するため、20歳代後半から30歳代後半の女性の労働参加率が低い「M字カーブ」という現象はほとんどみられなくなった。
今後、さらに女性や高齢者が働くようになるためには、賃金を含めて処遇改善が必要である。雇用情勢の逼迫(ひっぱく)を背景に、賃金は徐々に上昇し始めている。毎月勤労統計では、一般労働者の基本給の上昇率が前年比1%台半ばで推移している。
注目は23年春の賃金交…
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週刊エコノミスト
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