インド中間層拡大でGDPは英国超え確実 なお低い製造業の存在感 西濱徹
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潜在的な成長余力は大きいが、教育格差、インフラ不足など課題も多く、過度な期待は禁物だ。
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インドを巡っては、コロナ禍に際して世界的な感染拡大の中心地となるとともに、感染対策のための行動制限も影響して2020年度(20年4月〜21年3月)の実質GDP(国内総生産)成長率はマイナス6.6%と約40年ぶりのマイナス成長となるなど経済に深刻な影響が出た。しかし、その後はワクチン接種が進んだことに加え、感染拡大に伴い集団免疫の獲得が進んでいる上、感染一服による経済活動の正常化も追い風に翌21年度はプラス8.7%とプラス成長に転じ、今年度(22年度)も前半の成長率はプラス9.7%という高い伸びが続いている。さらに、実質GDPの水準も季節調整値ベースでコロナ禍前を大きく上回ると試算されるなど、マクロ面でコロナ禍の影響を完全に克服していると捉えられる。
ただし、商品高による世界的なインフレの動きは食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレを招いている上、景気回復の動きも重なりインフレ率は高止まりしている。中銀は断続的な利上げ実施を余儀なくされ、物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせることが懸念される。また、世界経済の減速懸念が高まっていることも景気の足を引っ張る可能性もある。
内需依存型の経済構造
なお、インドは長きにわたって社会主義に基づく経済政策を採ってきたため、供給サイドの基礎統計は比較的整備されている一方、需要サイドの統計は貧弱という特徴がある。例えば、家計消費の動向を示す小売売上高などの統計は存在せず、雇用統計などもタイムリーな状況を捕捉できないなどの問題を抱える。こうした状況ながら、インドのGDPは約6割を家計消費が占め、企業の設備投資やインフラなどの固定資本投資を合わせると約9割を占めるなど、経済構造は内需依存型である。さらに、近年は経済成長による中間層の拡大も追い風に家計消費が活発化しており、こうした動きが経済成長をけん引する動きもみられる。また、産業別のGDPではサービス業が全体の半分以上を占めるなどインドは「経済のサービス化」が進んでいる。
一方、製造業の割合は昨年度(21年度)時点においても15.5%にとどまるとともに、農林漁業(18.6%)を下回るなど経済成長のけん引役としての存在感を示すには至っていない(図1)。モディ政権は14年の政権発足以降、「メーク・イン・インディア」などのスローガンを打ち出して製造業をけん引役にした経済成長を目指す姿勢を示してきたほか、その後もさまざまな施策を打ち出す取り組みをみせているものの、足元でも依然として製造業の裾野は広がっていない。さらに、国民の約3分の2は農村に居住するなど産業構造と人口分布は一致しておらず、こうした状況は経済格差の縮小が進まない一因になっていると考…
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週刊エコノミスト
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