モディ政権の光と影 経済改革と保護主義が交錯 佐藤隆広
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経済成長の立役者であるモディ首相だが、保護主義的な政策も相次いでいる。
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2014年5月に成立したナレンドラ・モディ政権は、インドが当時直面していた最大の経済問題であったスタグフレーション(不況下の物価上昇)を短期間で解決した。また、外国直接投資規制の緩和や計画委員会の廃止などの行財政改革などにも取り組み、国内外の民間企業の活力を向上させるような経済改革(16年の破産・倒産法制度、17年の物品サービス税〈GST〉導入や22年の国営航空会社の民営化など)を実行した(表)。実際、世界銀行による事業環境ランキングをみると、インドの事業環境は大幅に改善し、14年の世界142位から19年の63位と79カ国をごぼう抜きにしている。
高額紙幣廃止で混乱
しかしながら、モディ政権の経済政策には、合理性という点で、首をかしげざるを得ないことも少なくない。たとえば、同政権は、16年11月に流通している現金の86%に相当する高額紙幣を突然廃止したり、20年3月には世界で最も厳格な新型コロナウイルスの感染拡大に対するロックダウン(都市封鎖)を断行したりしている。前者の高額紙幣廃止は汚職撲滅やブラックマネーの一掃を企図していたが、その目的にはほとんど貢献せずに、いたずらに経済を混乱させただけであった。後者のロックダウンは感染拡大を封じ込めるためのものであったが、一切の公共交通機関がストップしたため、出稼ぎで都市に居住していた移動労働者とその家族が帰郷することができず、その結果、2億人を超える規模の生活困窮者が発生した。
また、見通しの甘さや利害関係者との調整不足から、経済改革を推進していくうえで重要な法律で廃案になったものや、いまだに施行できないものが複数存在している。インドのインフラ開発を阻んでいるものとして硬直的な土地収用法の存在が知られているが、モディ政権は、大統領令で政府がより容易にインフラ用地を収用できるような改正土地収用法を14年末に時限立法化した。しかし、国会での可決が見通せなかったので、その翌年、最終的な立法化を断念した。
20年9月に成立した農業関連3法は、農産物流通の近代化と契約農業の制度化に向けた重要な経済改革関連の法律であったが、首都デリーでの何十万人にも達する農民による執拗(しつよう)な抗議運動によって、モディ首相が国民に謝罪をして、21年11月に廃案に追い込まれた。
19年から20年にかけて、モディ政権は植民地時代から蓄積されてきた44の労働関連法を四つの労働法典に集約し、解雇規制の柔軟化や労働者の社会保障制度への包摂に向けた法律内容の改正を行った。新型コロナ禍によって、その施行を21年4月に延期したが、同政権は、労働法典の施行を契機とする労働者や労働組合による抗議運動を警戒して、いまだに施行のめどが立っていない。
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週刊エコノミスト
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