教養・歴史

強まる政府主導「2%目標」修正圧力 木内登英

 2013年1月に日銀は、それまで長らく拒否してきた2%の物価目標の導入を決めた。形式的には日銀独自の判断によるものだったが、実際のところは、時の政権の強い圧力によって導入を強いられたもの、といえるだろう。

>>特集「政府・日銀共同声明10年」はこちら

 さらに政府は、この2%の物価目標の達成に向けて日銀が必ず積極的な金融緩和を実施するよう、いわば逃げ道をふさぐ狙いから、日銀との協議を経たうえで政府と日銀の共同声明を発表したのである。

本格的な政策修正は先送り

 その際に日銀は、自らが一方的に責務を負わないよう、政府にも構造改革や財政健全化の実施を求めた。加えて、2%の物価目標は金融政策だけで達成を目指すものではなく、政府、企業などの積極的な取り組みが前提、と解釈できるよう、文言を工夫したのである。この時点での2%の物価目標は、金融政策運営を大きく縛るものではなく、事実上、中長期の目標であったといえるだろう。

 該当部分の表現は必ずしも分かりやすくないが、政府・企業など幅広い主体の取り組みが進められ、競争力と成長力の強化がさらに進展すれば、物価の安定と整合的な物価上昇率、つまり日銀が目標とすべき物価上昇率の水準も高まっていくことが期待される、と説明している(表)。そうなった場合には、日銀は「できるだけ早期に」2%の物価目標の達成を目指す、としているのである。

 ところが、13年3月に日銀総裁に黒田東彦氏が就任すると、2%の物価目標は金融政策のみで達成を目指す、通常の中央銀行の物価目標へと変質していった。

 今春に就任する次期総裁の下で日銀は、政策の柔軟化、正常化を進めていくことが見込まれるが、その際に大きな障害となるのが、到底達成可能でないこの2%の物価目標だ。日銀は政策の正常化を実施する前に2%の物価目標の位置づけを長期目標などのより現実的な目標へと修正し、金融政策運営と物価目標を切り…

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週刊エコノミスト

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