国際・政治 人民元
米ドル覇権を崩す人民元建て石油取引に現実味はあるのか? 岩間剛一
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民主主義や人権を前面に押し出す米国に対し、中国と中東は政治的な独裁体制を続ける点で波長が合う。
習主席がサウジで“ペトロユアン宣言”
中国とサウジアラビアが、人民元建ての石油取引に向けて動き出している。世界最大の貿易品目である石油は米ドル建てで取引されており、これが国際基軸通貨ドルの強さの源泉となっていた。しかし、中国はすでに米国に次ぐ世界第2位の石油消費国、石油輸入では世界第1位となっており(図1)、中国が石油を人民元建てで取引すれば、米ドル覇権を揺るがす一歩となりうる。
中国の習近平国家主席は2022年12月、中東を歴訪し、世界最大の原油輸出国サウジアラビアでは事実上の国家指導者ムハンマド皇太子らと会談した。サウジアラビアに対しては中国企業がサウジアラビアの工業化に協力することなどを表明したが、中でも注目すべきは「石油、天然ガス貿易で、ドル建てではなく人民元決済を展開したい」と提起したことである。これは、事実上の石油人民元(ペトロユアン)宣言だ。
これまでも中国は石油輸入に関して人民元建て取引を模索しており、サウジアラビアの国営石油企業サウジアラムコは20年11月、人民元建ての社債発行の可能性を表明している。また、上海市場には18年3月、人民元建ての原油先物が上場し、石油メジャー(国際石油資本)の英BPが中東原油を引き渡している。中国はロシアによるウクライナ侵攻を契機として、人民元経済圏のさらなる拡大を模索する強い姿勢を見せている。
中国が人民元建て取引に取り組むのは、第一に経済的な理由として、中国とサウジアラビアをはじめとした中東諸国の経済的な結びつきが拡大していることが挙げられる。中国にとって最大の石油輸入先はサウジアラビアであり、サウジアラビアにとっても原油の最大の販売先は中国である(図2)。輸出・輸入両面でも最大の貿易相手国は中国となっている。その他の中東産油国も中国は最大の貿易相手国だ。
米国がシェールオイルの生産量の増加により、世界最大の原油生産国となってからは、サウジアラビアにとって最大の石油の輸出先は中国へと変わった。中国とサウジアラビアにとって、第三国である米国の通貨ドルを介在する必要性は低下している。折しも、中国政府は22年12月、日用品の一大取引市場となっている中国浙江省義烏市とサウジアラビアによる初めての人民元によるクロスボーダー取引を行ったと発表した。
ロシア制裁で増す脅威
第二に、政治的な面として米国と中国の対立の先鋭化が挙げられる。ウクライナ侵攻に対するロシアへの経済制裁では、SWIFT(国際銀行間通信協会)からロシアを締め出すこ…
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週刊エコノミスト
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