国際・政治

米国の戦車供与はウクライナ支援の転換点 露の反転攻勢をくじき停戦促す 渡部恒雄

勢いづいたときこそ立ち止まって考えることが大事と、日本は身に染みているはずだ
勢いづいたときこそ立ち止まって考えることが大事と、日本は身に染みているはずだ

 長期戦になればロシアが有利だ。だから、攻撃力の高い武器の供与で反撃を封じ、交渉のテーブルに着かせる考えだ。

>>特集「ウクライナ侵攻1年」はこちら

 ロシアのウクライナ侵攻から1年が経過し、再びロシアの大規模な軍事攻勢が危惧される中、米国はこれまでの政策を振り返り、今後の戦略を考える岐路に立っている。筆者は本誌(2022年5月3・10日合併号)で、米国はロシアの「軍事的冒険主義」を失敗に終わらせることで、中国の武力による台湾統一を念頭に、「軍事的冒険主義」の重いコストを中国や世界の指導者に認識させ、国際秩序の安定を図ろうとしているという戦略観を紹介した。米国のこの基本的な戦略観に変更はないと思われるが、米中緊張のさらなる高まりもあり、ウクライナでの戦闘の長期化を避けるための戦略が米国内で議論されている。

 22年を通じて、ロシアの侵攻に対抗するウクライナの善戦が継続し、米欧も軍事援助を継続してきた。米欧の結束は想定以上に固く、現時点で米欧にウクライナへの援助疲れは見られない。米国は、将来の国際秩序の安定も視野にウクライナへの軍事支援をしてきた一方で、ロシアがこれに過剰反応することや、昨年11月のポーランドへのミサイル着弾(ロシアからのものでないと確認された)で危惧されたような、偶発による米欧・ロシアの交戦にエスカレートすることを避けようとしてきた。特に米国は、欧州以上に戦車、戦闘機、長射程ミサイルという「攻撃性」の高い武器供与に慎重であった。

戦車で補給路を分断

 しかし1月25日、バイデン大統領はウクライナに主力戦車「エーブラムス」31両を供与すると発表した。それまでの戦車供与への慎重姿勢を撤回する決定だった。

 その背景には、ドイツが同国製主力戦車「レオパルト2」をウクライナに供与する逡巡(しゅんじゅん)を覆し、米欧の結束を維持する意図があったと指摘されている。実際、ドイツも「レオパルト2」を供与し、ポーランドなどの同盟国が保有する同戦車の提供も認めると発表したため、ウクライナの「攻撃力」が高まる決定となった。これは米国の対ウクライナ支援の大きな転換点といえる。

 事実、ジョンズ・ホプキンズ大学のハル・ブランズ教授は、2月1日のブルームバーグ(電子版)に寄稿した論考で、ウクライナでの戦闘が新しい局面を迎えていることで、米国の戦略も重要な転換期を迎えていると指摘する。これまでバイデン政権は、ロシアを刺激しすぎて、米露の核戦争にまでエスカレートすることを恐れてきたが、現在では、むしろ米欧の厳しい消耗を伴う戦争の長期化を恐れているとも指摘する。

 戦争が長期化した場合、自国の動…

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