教養・歴史

社会に出て低成長しか知らず成長率を低く見積もる可能性 久後翔太郎

 1988年生まれの私はデフレ世代にあたるが、バブルを経験していないわけではない。2008年のリーマン・ショックが発生する数年前は、欧米の住宅価格上昇がけん引する世界的な好景気の恩恵を受け、日本もそれなりに景気はよかった。

>>特集「バブル世代vs.デフレ世代」はこちら

 ところが、リーマン・ショックを契機に行き過ぎた欧米の不動産価格が急落、世界的な景気後退へとつながり、日本も巻き込まれた。大学生であった当時、印象的だったのが、リーマン・ショック前に採用が決まった09年卒と10年卒の学生が大きく明暗を分けたことだ。おおげさに言えば、卒業年次1年の差が、人生を変えてしまう怖さを知った。

 つまり、好景気の時に卒業すれば、学生の「売り手市場」になり就職に有利だが、不況期であれば、その逆になる。10年に学部を卒業した私にとって、リーマン・ショックの影響は大きく、「新卒一括採用」という慣行に強い理不尽さを感じた。

 ただ、同じバブルでも80年代後半と00年代半ばとはかなり違う。株価の推移を比べると、80年代後半のバブルのほうが明らかに上昇率が大きい。実感に近い名目GDP(国内総生産)で比較しても、違いは鮮明になる。また、GDPギャップを見ても、80年代後半の過熱感は強い。

 80年代後半に発生したバブルの崩壊は長期にわたり日本経済を苦しめた。経済の実力である潜在成長率を見ると、4%台前半あった80年代後半と0%台後半から1%程度の00年代半ばとでは、違いは明らかだ。

 社会人以降、低成長しか経験していない私にとって、今後の景気見通しや物価予想などが課題になるかもしれない。そうした経験に引っ張られ、低く見積もってしまう可能性がある。データを基に精緻に予想していきたい。

 過去の経験に引きずられるという特性は「適合的期待形成」として、日銀でも議論されるものだ。すなわち、人間の予想は過去に経験したこと…

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週刊エコノミスト

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