バブル期就職組 vs.就職氷河期世代 人生に影落とす理不尽な格差 太田聡一
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好不況が新卒者の就職に影響するのはやむを得ないが、バブル崩壊後の長い景気低迷は取り返しのつかない状況を招いている。
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筆者が大学を卒業したのは1987年、日本経済がバブル絶頂期への坂道を上っていく過渡期だった。絶頂期前でさえも、企業の新卒採用熱はヒートアップしていて、内定者を囲い込むために企業は大変な努力を払っていたことを覚えている。大学新卒者の就職環境が最高潮に達したのは90年で、91年3月卒者の求人倍率は2・86倍と、1人の新卒者に対して約三つの求人という「超売り手市場」であった。いわゆる銘柄大学ではない新卒者も、有名な企業にどんどん採用されていた。
筆者は大学院で労働経済学を学ぶことにしたが、常に念頭にあったのは、日本経済とそれを支える労働市場の強靭(きょうじん)さであった。ボーナス制度、企業特殊的技能、競争的な雇用の受け皿(中小企業部門)の存在といった議論に熱中していた。
ところが、ほどなくしてバブルが崩壊し、日本の労働市場の環境は急速に悪化した。93年3月卒の求人倍率は2を割り込み、さらに3年後の96年3月卒は1.08となり、新卒者にとって厳しい就職環境に陥った。当時、筆者は留学していたが、たまたま帰国していた時期に、就職希望の大学生が中小企業の入社説明会に列をなしている状況を報道で知り、幸運にもバブル期に卒業できた人々との落差にショックを受けた。
そして、たまたま不況期に学校を卒業したばかりに希望する会社に就職できなかった多くの新卒者の出現は、社会に何らかの影響をもたらすであろうと感じた。当時はまだ明確に理解していなかったが、「就職氷河期世代」の誕生を目の当たりにしていたことになる。
不本意非正社員
人々が学校を卒業して就職しようとする時期の労働市場の環境によって、その後の就業状態や労働条件が変わってくる現象を「世代効果」と呼ぶ。学卒時にたまたま景気が悪い世代が生じることは、景気変動がある以上避けることができない。
しかし、就職氷河期世代の人々は、その影響が深刻で、かつ長期化していることが問題だ。実際、現在に至っても正社員の仕事を希望しながら実現できていない就職氷河期世代の不本意非正社員が少なくない。また、正社員でもバブル期に就職した人々に比べると平均賃金が低いという現象が続いている。その理由については、筆者自身の研究を踏まえると以下の点が重要だと考えている。
第一に、賃金水準の高い大企業が新卒採用を大きく絞り込んだことがある。バブル期から一転して将来の市場環境に悲観的になった大企業は、長期的な育成対象である新卒者の採用縮小に踏み切った。直前のバブル期に大量に若者を採用してきたことや、すでに雇われている中高年正社員の雇用を維持する必要性もあり、新卒採用縮減は厳しいものにならざるを得なかった。
その一方で…
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週刊エコノミスト
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