経済・企業

AT1債の無価値に異議! 債券・債権者のリスク許容度狭めた 中空麻奈

 米国金融機関が相次ぎ破綻したら、思わぬ飛び火が欧州へ。当局からのアナウンスメントでは事足りず、UBSに吸収統合させる形で、クレディ・スイスを処理することが決まった。UBS1株に対し、クレディ・スイス22.48株の割り当て。解散価値より評価が低いという問題があるものの、株主の取り分はゼロにならなかった。これに対し、「AT1債」が償却され全損となる。この決断が将来的に禍根を残すことになるのではないかと懸念している。

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 スイス連邦政府、スイス国立銀行(中央銀行)、スイス連邦金融市場監督機構(FINMA)は2行に対し強靭(きょうじん)性を強化し、金融危機が経済に与える影響を限定することで金融システムの安定を促進するための措置として、①所要自己資本のハードルを高くし、②リスク・リターンの異なる投資家によって保持されるべくさまざまなレイヤー(投資家層)の資本を置くことを決めた。

 しかも、スイスではこのAT1債の中身が2段階になっており、特定の事象が生じた場合に株式に転換する、あるいは転換可能な債券で、銀行の経営状態が悪化する際には損失吸収が可能となる建て付けである。加えて、当局の判断で損失吸収のトリガーを引ける「実質破綻時損失吸収(PONV)条項」が加わり、綿密に計算された資本規制強化の一環であった。

 今回の結末は、AT1債だけが全損となった。これは法的には問題がないと想定される。前述したように当局がPONV条項を発動しトリガーを引けば、AT1債は商品設計としてゼロになっても仕方がない、と書かれているからだ。しかし、本当にそうだろうか。

CET1比率13%超

 企業が破綻する場合、会社法第502条で定義されているのは「当該清算株式会社の債務を弁済した後でなければ、その財産を株主に分配することができない」ということである。弁済順位は下から、普通株、AT1債、Tier2債(補完的項目)、シニア債、というのが金融市場の参加者にとって一般的なルール。

 商品設計によって異なることや、同じAT1債でも国ごとに異なることはわかっていても、投資家にとって一般的な…

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