植田日銀の難路 銀行が国債を買えなくなる日 野崎浩成
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シリコンバレー銀行(SVB)破綻の一報に接し、筆者の最大の懸念はシステミックリスクではなく日銀の金融政策への影響であった。2015年のバーゼル銀行監督委員会における議論の経過を想起させたからである。
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3月28日、上院銀行委員会公聴会でFRB(米連邦準備制度理事会)の金融規制担当であるマイケル・バー副議長が「テキストブックにあるような不適切経営」と指摘した通り、リスク管理の不備がもたらした分かりやすい経営危機だ。バー氏はSVBがストレステスト対象外であったことを監督上の問題としたが、議論の展開次第ではこの事案が国際的規制を巡る議論の俎上(そじょう)に載りかねない。
この問題の本質は「銀行勘定における金利リスク」である。これをIRRBB(Interest Rate Risk in the Banking Book)と呼ぶ。銀行は預金などで資金を調達し、有価証券や貸し出しで運用する。こうした運用資産は、取引目的により銀行勘定(バンキング勘定)と特定取引勘定(トレーディング勘定)に分別される。
貸し出しはもちろん、有価証券についても大半が銀行勘定に区分されるのは、日本、欧米を問わず一般的である。特定取引勘定に区分されると、評価差額(含み損益)が期間損益を通じて資本に影響するほか、金利リスクなどの市場リスクが自己資本比率の分母であるリスク資産に加えられる。他方で銀行勘定であれば、信用リスクのみ評価され、金利リスクはリスク資産に算入されない。銀行が有価証券を銀行勘定に区分するのは、当然といえよう。
財政問題に発展も
簡単な例を示す。資産100億円、資本10億円の銀行が、中小企業向け貸し出し(リスク掛け目100%)に10億円、残る90億円を30年物国債に配分した場合、自己資本比率はどうなるか。
自国通貨建て国債のリスクはゼロと評価されるため、自己資本10億円をリスク資産10億円で除して、自己資本比率は100%と超優良行となる。しかし、金利が1%上昇すると国債価格は30%程度(1%×30年)下落し、27億円の評価損を抱える。会計上は17億円の債務…
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週刊エコノミスト
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