国際・政治

米国なき世界秩序の序章の始まり 福富満久

 根深い中東問題の仲介役として台頭する中国。米国と対立する大国は、ユーラシア大陸への影響力を強め、したたかな外交を展開する。

中露・サウジ・イランとの資源戦争

 2023年3月10日、イランとサウジアラビアは、中国北京での4日間にわたる非公開協議を経て国交回復に関する合意を発表した。米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は同日、米政府は合意に直接関与していないと明かした。米国が長年にわたり影響力を行使してきた中東地域で、中国が和平の仲介役を担った事実は、その影響力の低下が進んでいることを明らかにした。

 イランもサウジも世界有数の石油産出国であり、天然ガス資源国である。両国ともにイスラム教を国家の統治機構の中枢に据えており、イランはイスラム指導者(イマーム)によるシーア派の教義によって、サウジは聖地メッカとメディナを守るサウジ家によるイスラム原理主義ワッハーブ派(スンニ派)の教義によって国家運営がなされている。そのため両国はイスラム教の教義を巡り、これまでしばしば対立関係にあった。

 16年には、両国関係はサウジによるシーア派聖職者の処刑を巡り緊張、イランの首都テヘランのサウジ大使館が襲撃されたことを受け、サウジがイランと断交した。また、サウジと国境を接するイエメンでイエメン政府を支援するサウジとそれに反旗を翻すシーア派系フーシ派を支援するイランが代理戦争を展開、両国関係は悪化の一途をたどっていた。昨年4月、国連の仲介で停戦が成立したが、内戦関連の死者は37万人を超え、うち7割が5歳以下とされる。

原油、人民元、武器

 今回の国交回復で今後、地域の国際政治情勢に大きく影響が出ることが二つある。一つは、サウジは米国の意向よりも、自らの国益を最優先する外交へとかじを切ったということ。もう一つは、中国がユーラシアでさらに影響力を高めていく可能性があることだ。

 米国とサウジは、米国が1973年2月、固定相場制だった為替レートが変動相場制に移行して以降、オイルマネー循環を通してパートナー関係を強固に維持してきた。米国はサウジから石油を購入し、支払われたドルをサウジは米国の金融機関に預け、それが世界的に融資されていく、というドルの循環に重要な役割を果たしてきた。その見返りにサウジには米国の最新の軍需産品や最新鋭機が輸出され、サウジの治安維持に寄与してきた。

 だが、そうした関係も今後は、少しずつ変化していく可能性がある。そもそも中国が他国間の和平交渉の間を取り持つことなど、かなりまれなことである。ではなぜ中国は、複雑に絡み合う中東の根深い問題に介入したのだろうか。一言でいえば、それは中国のパワーと影響力を世界に見せつけ、米国の世界的な存在感の低下を知らしめるためである。中国は、そのためにやるべきことが三つある。

 一つ目は経済成長のための石油資源の確保、二つ目は、その取引通貨として中国人民元の存在を高めること、三つ目はその元と引き換えに軍需産品を輸出して軍事的にも従属させていくことだ。

 これはまさに米国が冷戦下において、覇権を握るために行ってきた政策と軌を一に…

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週刊エコノミスト

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