中露に接近する中東諸国 欧米金融離れするオイルマネー 松田遼
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クレディ・スイス破綻の引き金を引いたのは、中東の政府系ファンドだった。
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3月19日、スイスの中央銀行であるスイス国立銀行は、UBSによるクレディ・スイス買収を支援すると発表した。クレディ破綻を回避するために、スイス政府が支援に動かざるを得なくなった理由は、その直前の3月15日、クレディの筆頭株主であるサウジ・ナショナル銀行(SNB)のアンマル・フダリ会長が追加的な資本、流動性の提供を否定したとのメディア報道である。
SNB会長の発言をきっかけにクレディが破綻間際に追い込まれ、UBSに救済買収となったことで、同会長は辞任に追い込まれている。SNBは、サウジアラビア最大の商業銀行で、その大株主は同国政府、実質は政府系ファンドだ。SNBがクレディ株9.9%を取得し、筆頭株主になったのは昨年11月である。そのわずか5カ月後に、クレディを破綻の危機に追い込むようなフダリ会長の発言は、SNBが保有するクレディ株の評価を大きく毀損(きそん)し、筆頭株主としての配慮を欠いたものと言わざるを得ない。
今回のUBSによる買収は、クレディ株22.48株に対してUBS株1株が割り当てられる株式交換により2023年中に実施される予定。実質的に、クレディ株1株は0.76スイスフラン(約110円)と評価され、買収総額は30億スイスフラン(約4350億円)。このクレディ株の評価額は、1年前の10分の1の水準だ。
SNB会長の発言を巡っては、さまざまな臆測を呼んでいる。その一つは、最近のサウジと中国、ロシアとの関係改善によるものだ。欧米と対立する中露に接近するサウジが、反欧米に傾いたという見立てである。
注目は中東以外のファンド
過去、多くの世界的な金融機関が経営危機に瀕(ひん)した際に、中東勢から資金提供を受けてきた。オイルマネーの潤沢な資金力を背景に中東勢は友好的な投資家として、欧米金融機関に多額の資金を供給してきたのである。ただし、08年のリーマン・ショックによる国際金融危機からはしばらく時間が経過した現在、金融安定理事会が認定した「グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIBs)」の主要な33銀行に対する中東勢による投資は、限定的といえる。
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その限定的な事例がクレディだった。現在、同社株に3%以上出資している投資家は4社ある。そのうち3社が…
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週刊エコノミスト
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