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経済・企業 忍び寄る世界金融危機

AT1債の教訓 自己資本の規制強化でプロも分からない構造に 大槻奈那

投資家からは厳しい声が上がった(年次株主総会に出席したクレディ・スイスのウルリッヒ・ケルナーCEO)(Bloomberg)
投資家からは厳しい声が上がった(年次株主総会に出席したクレディ・スイスのウルリッヒ・ケルナーCEO)(Bloomberg)

 リーマン・ショックの反省から規制強化がされた一方で、複雑になりすぎた仕組みに専門家も戸惑っている。

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 投資は自己責任であるから、いざというときには損失を被る。こうした当然のような原則の重さが、米国のシリコンバレーバンクやスイスのクレディ・スイスが経営難に陥ったなかで発動された「ベイルイン」という仕組みを通じ、投資家に突きつけられたといえよう。ベイルインとは、金融機関が発行する永久劣後債や優先出資証券について、経営が悪化した場合には元本を削減したり、普通株に転換したりすることである。

 導入の背景には、2008年のリーマン・ショックの反省がある。当時、欧米では経営危機に陥った金融機関を救済するために多額の公的資金が注入された。その代わり、救済された金融機関が発行していた劣後債などを持つ投資家は、投資元本が損なわれる事態を回避できたという側面がある。

高利回りが人気呼ぶ

 元来、リスクを承知のうえで資金を投じているはずの投資家が損失を被らずして、納税者が間接的に損失を被ることとなってしまった。このような構造が問題視され、投資家に一定のリスクを求めるベイルインの仕組みが導入されるようになったのである。

 国際的な金融システムの規制や監督を担う「金融安定理事会(FSB)」は、ベイルインを「グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIBs)」に対する秩序ある破綻処理戦略の中核的な要素と位置付けている。各国の金融当局や、G-SIBsに当たる大手金融機関に向けて、「ベイルイン実行に関するプリンシプル(原則)」などを公表し、実効性の向上を図った。

 このようなベイルイン条項を含む債券には、数年前に話題になったCoCo債や、今回のクレディ・スイスなどが発行していたAT1債がある。これらは、発行体である金融機関が実質破綻状態であると金融当局がみなした場合などに、元本の削減や株式への転換が強制的に行われる。債券と株式の双方の性質を持ち、ハイブリッド証券とも呼ばれる。

 ベイルインを含む債券は、金融機関の資本にどのように組み込まれるのか。クレディ・スイスはもちろん、日本のメガバンクなどの大手金融機関は、銀行の自己資本比率の算出方法を定めるBIS(国際決済銀行)規制により、図1のような資本構造となっている。

 金融機関は経営の健全性を保つために一定以上の自己資本比率を求められており、その中でも中核的な自己資本は「普通株式等Tier1(CET1)」と呼ばれる。CET1は、普通株や内部留保で構成される。その次に質が高いとされる資本が、「追加的Tier1」と呼ばれ、優先株やAT1債が含まれる。AT1債はリーマン・ショック後、10年に合意されたバーゼル3規制の下で約10年前の13年以降になって本格的に発行されるようになった。

 ところが今回、クレディ・スイスの破綻によっ…

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