経済・企業

インタビュー「古い住宅団地を再生し、未来に向けた街をつくる」芳井敬一・大和ハウス工業社長

 大和ハウス工業が、1960年代以降につくった古い住宅団地を活性化する取り組みを進めている。「リブネスタウン」と呼ぶこのプロジェクトの狙いは何か。芳井敬一社長に聞いた。(聞き手=秋本裕子・本誌編集長)

── 古い住宅団地の再生に力を入れています。その理由は。

芳井 高度成長期に都市への人口流入の受け皿として、郊外部を中心に住宅団地が開発されました。当社も1960年代から「ネオポリス」の名で郊外型の住宅団地を全国61カ所で展開しています。しかし、近年は住民の高齢化や居住世帯数の減少が進み、地域コミュニティーの活力低下や、空き家の増加が社会問題になっています。

 一方で、ITの進展やデジタル化により、スマートシティーなどの新しい街も広がってきました。ただ、過去に当社がつくった街を見ると、この状態を放置して新しい街をつくる資格があるのかを考えるようになりました。当社がつくった街に高齢化や空き家問題が起きているのはなぜか。まずは過去を総括し、次にどういう街をつくるべきかを考える時期だと思い、2015年前後から取り組みを始めました。現在、8カ所の住宅団地で手掛けています。

── 老朽化した空き家が目立つようになっているのですね。

芳井 販売当時のカタログを見ると、住宅を買うことは夢や希望にあふれていたのが分かります。住宅団地の周りには学校や公園、スーパーなどが集まり、当初は活気もあったことでしょう。

 ところが、その後に急速に少子高齢化が進み、当社が街をてこ入れする機会もありませんでした。マンションの場合には管理組合があり、当社も子会社で管理をお手伝いしたり、建物や共有設備の更新などを話し合ったりする機会が継続的にあります。しかし、住宅団地は最終的には運営を自治会に委ねるという原則から、完成したら住宅メーカーは手を引くのが普通です。その後は、従業員が戸別訪問することはあっても、街全体を見るという発想はありませんでした。今後はそこをやって活気を取り戻そうと思っています。

── 空き家問題はなぜ起きているのでしょう。

芳井 住み方が変わってきたことが大きいですね。家族が比較的多い家庭では、都市部より少し価格が安く、周辺環境が良い郊外の住宅も人気があります。ただ、子どもが成長して独立し、親世代だけになると、部屋が広すぎたり、庭の手入れをするのが大変だということで都市部の住宅に住み替えるケースも増え、そのまま空き家になるケースがあります。

── そうなると、地域のつながりが弱くなりますね。

芳井 当初は夜祭りやバーベキューなどの企画もあったでしょうが、住民が年齢を重ねるとそうはいかない。そのうち、新しい人が入ってくると、昔からの住民とのコミュニケーションが図りにくくなり、問題が顕在化せず、そのままあきらめる構図があります。

住民同士の交流活性化

── 具体的に、どういう方法で取り組んでいるのですか。

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週刊エコノミスト

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