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EV新時代に突入したテスラ 他社追随不能の“値下げ力” 野辺継男
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4月20日の米株式市場で、米電気自動車(EV)大手テスラの株価が約10%下落した。値下げにより、2023年第1四半期(1~3月期)の利益率が19.2%から11.4%に低下したことに市場が反応した形だ。しかし、値下げによる利益率の低下はイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)も、昨年末からその可能性を指摘している。市場が注視すべきは、テスラのさらなる値下げと収益改善の可能性だ。テスラの競争原理はハイテク企業やソフトウエア開発会社のそれに近く、従来の自動車会社にない技術力、生産体制、収益構造を持っている。窮地に立たされるのは、コロナ禍から回復後の増産の前に値下げを余儀なくされているEVスタートアップや、EVシフトを模索中の既存自動車会社ではないか。
EVは19年から黒字化
テスラの収益力の高さは、22年通年(1~12月期)の財務報告で公開されている。図は17年から22年のテスラ車の平均販売価格と営業利益率の推移を示したものだ。
この間、車体の平均販売価格が6年でほぼ半減し、営業利益率がマイナス13.9%からプラス16.8%と驚異的な改善を実現した。重要な点はEV事業として19年に損益分岐点を超え、その後も販売を伸ばすとともに、利益を急速に伸ばしている点だ。
一方、新興のEVメーカーや既存の自動車会社でEV事業で損益分岐点を超えている企業はほとんどない。その状態でテスラに追従して値下げをするのは、極めて危険な経営判断だ。テスラは損益分岐点を大きく超えた後も、固定費と変動費を継続的に削減している。販売価格を下げると、一時的に利益率は下がるものの、その後は販売数量増で利益を回復しやすい状態になっている。特にEVは内燃機関のクルマよりも量産効果が大きい傾向があり、テスラのコスト構造は競争優位の大きな源泉となっている。
テスラは昨年10月から今年1月にかけ、中国で5回も値下げした。世界的な半導体不足やインフレで各社が値上げを続ける中での値下げで、一部からは「上海工場での増産の割に売り上げが伸びていない」と指摘されたが、現実にはこの値下げで再度売り上げを大きく伸ばした。
3月1日の投資家向け説明会でマスクCEOはコスト低減の詳細を明らかにした。焦点は「自社で持つソフトウエアの開発能力」「製造時間の短縮」「工場の巨大化(ギガファクトリー)」「生産ラインの省スペース化」「製造プロセスの自動化」「大型鋳造機械(ギガプレス)で一体成型する生産革新」──などだ。
EVは、運転支援や航続距離の伸長、制動能力(回生ブレーキ)などクルマの重要な付加価値をソフトウエアで実現する傾向にある。ソフトウエアの開発コストのほとんどは人件費で実質的に固定費だ。一度開発してしまえば、販売台数が増えるほど1台当たりの限界コストは急激に低下する。また、EVのコストの多くを占めるバッテリーも、テスラはセルサイ…
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週刊エコノミスト
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