国際・政治 米銀破綻の余波
米国金融システムに崩壊の予兆 米国債の信用低下は必至 滝澤伯文
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米国は金融規制規律を失った。破綻金融機関の公的資金による救済を繰り返せば、財政の信用を揺るがす。
SNS発の“超特急”危機が常態化へ
シリコンバレー銀行(SVB)、シルバーゲート銀行など米銀3行の経営破綻から2カ月が経過した。この問題についての解説は、どれも表面的な出来事を後追いした一般的な内容にとどまり、なぜ今回の事態が発生したのかについての核心に迫る分析を目にしたことはない。筆者が考えるところ、その本質は、米国社会をむしばむ過度のリベラル化に起因した「金融規制規律の喪失」である。本稿ではそこを掘り下げるが、まずは破綻劇の前に起こっていた現象を整理したい。
2021年から22年末にかけて、クリプト(暗号資産)市場が約70%下落し(図1)、昨年11月には暗号資産取引所のFTXが経営破綻したことは記憶に新しい。そして、今回の米銀3行の破綻問題で重要だったのは、シルバーゲートの破綻である(3月8日)。FTXと違い、シルバーゲートは貯蓄貸付組合(S&L)として認可された金融機関だ。同行では、クリプトローン(暗号資産を担保とした貸し付け)などが焦げ付いた。また、FTX崩壊の影響がシルバーゲートなどに波及する中で、同様にクリプト関連の損失が銀行業務の中核にまで及んだのはSVBだった。
リーマン・ショック(08年9月)後に長すぎたゼロ金利が続き、コロナ禍後に米連邦準備制度理事会(FRB)が直接、米国民にお金を配ったことで40年ぶりの高インフレを招いた。これを沈静化すべくFRBが利上げに転じると、未熟な運用担当者は対応できなかった。
SVBが破綻した23年3月時のマクロ経済の環境は、FRBの利上げで22年はアセットが軒並み下落したにもかかわらず、利上げが始まった昨年3月から1年間で銀行貸し出し(リース含む)は1.2兆ドル(約162兆円)増加(図2)。3月6日にはFDIC(米連邦預金保険公社)が米銀の含み損は6200億ドルに上ると発表。これを受け、米著名投資家のピーター・ティール氏が共同創業者になっている「ファウンダーズ・ファンド」が投資したハイテク系のスタートアップ企業に、SVBからの預金を引き出すように助言。結果、1日で400億ドルが引き出され、翌日には同行の株式は1日で70%下落。そのままFDICの管理になった。
注目はこの取り付け騒ぎは僅か3日間の出来事だったことだ。1990年初頭からの日本のバブル崩壊から97年11月の山一証券破綻まで8年近くを要した。大手銀行の再編が完了するまで約10年。米国で経験した最初の危機はLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)の破綻(98年9月)。引き金となったロシア財政危機の発覚から約3カ月を要した。リーマン・ショックに至る前段で、07年後半に表面化したサブプライムローン(信用度の低い借り手への融資)問題により米投資銀行ベア・スターンズの経営危機が起き、同社が倒産するまで9カ月。そこからリーマン倒産まで3カ月だった。
過去の金融危機と、今回起きた米銀破綻との違いは明らかだ。SNSの影響によって、直前まで普通に取引されていた株が、あっという間に消滅するパターンが今後の金融危機では常態化する。その場合は国家が救済できるのは預金者だけになる。
ソ連崩壊で資本主義と民主主義の矜持を失った米国
さて、ここからが問題の本質だ。91年に旧ソ連邦が倒れ、米国は単独覇権国となった。冷戦を勝利に導いた両輪は資本主義と民主主義。そのあるべき姿を厳粛に守っていた米国は、ソ連という敵をなくしたことで、資本主義と民主主義の矜持(きょうじ)を失った。その延長線上でリーマン・ショックが起きたのだが、筆者がその遠因と考えるのは、クリントン政権末期に、商業銀行業務と投資銀行(証券)業務を分離してきたグラス・スティーガル法を廃止したことだった。この…
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週刊エコノミスト
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