国際政治学習の完璧な教科書 孫崎享
有料記事
『国際紛争 理論と歴史』
ジョセフ・S・ナイ・ジュニア、デイヴィッド・A・ウェルチ著、田中明彦・村田晃嗣訳
有斐閣(3300円)
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私は1985年から86年にかけて、1年間研究員として米ハーバード大学国際問題研究所に所属した。ここでは、どの授業も聴講が可能であった。著名な本を出す教授がずらりといた。『決定の本質 キューバ・ミサイル危機の分析』(71年)のアリソン、『文明の衝突』(96年)のハンティントン、『歴史の教訓 アメリカ外交はどう作られたか』(73年)のメイらがすでに発表済みのもの、考察中のものを授業で紹介していた。
その中で圧巻はナイである。講義は学生であふれていた。席がなくて学生は通路にも座っていた。切れ味良く、国際政治の核心に切り込んでいく。彼の最初の講義は「広島、長崎への原爆投下は正当化できるか」であった。
私は2002年から防衛大学校の教授の職にあり、「危機管理」の授業を行った。その時手にしたのがナイとウェルチの『国際紛争 理論と歴史』である。
国際政治を学ぶものに、これほど完璧な教科書はないのではないか。章立ては次のようになっており、これを見るだけで壮観である。
第1章「世界政治における紛争と協調には一貫した論理があるか?」、第2章「紛争と協調を説明する 知の技法」、第3章「ウェストファリアから第一次世界大戦まで」、第4章「集団安全保障の挫折と第二次世界大戦」、第5章「冷戦」、第6章「冷戦後の紛争と協調」、第7章「現在の引火点」、第8章「グローバリゼーションと相互依存」、第9章「情報革命と脱国家的主体」、第10章「未来に何を期待できる…
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週刊エコノミスト
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