独自の政教一致体制で平和を維持したチベットの歴史を概観 加藤徹
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石濱裕美子著『物語 チベットの歴史 天空の仏教国の1400年』(中公新書、990円)は、古代から現代まで激動の歴史を生き生きと描く。761年、古代チベット帝国が仏教を国教化して以来、チベットは独特の政教一致体制により、その存在感をしたたかに示してきた。
13世紀、モンゴル帝国の皇帝フビライは、チベットの高僧パクパ(中国語読みではパスパ)から密教の灌頂(かんじょう)(菩薩が仏の位に達したことの証明)を受けた。軍事力のモンゴルと精神文明のチベットが組む「政教一致体制」は、後世の征服王朝の模範となった。
16世紀、モンゴルの君主アルタン=ハーンは、チベット仏教の高僧ソナム・ギャンツォに「ダライ・ラマ」という称号を贈った。2人はフビライとパクパの転生者で、仏教を広めるため300年の時を経て再会したのだ、と信じられた。
18世紀、最盛期の清に君臨した乾隆帝もチベット仏教を信仰し、チベットの高僧パンチェン・ラマ3世に叩頭(こうとう)、つまり土下座して拝んだ。
政教一致の仏教国に君臨した歴代のダライ・ラマは、仏僧ゆえ妻帯できず、子孫を残せない。ダライ・ラマが死去すると、側近が転生者を探し出して即位…
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週刊エコノミスト
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