再エネ活用方針維持のドイツ 日本企業にチャンス到来 高塚一
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再生可能エネルギーの有効活用のため、送電網整備と蓄電池の開発を進めるドイツ。日本企業の参入も相次いでいる。
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二酸化炭素排出が実質ゼロとされる合成燃料の使用を条件に、「エンジン車温存」に転換したように報道されたドイツだが、電気自動車(EV)を再生可能エネルギー(再エネ)変動の「調整弁」に使う取り組みや、北部の風力資源を南部の電力消費地に運ぶ送電網の拡充の手綱は緩めていない。再エネの利用拡大に向けた自動車と電力の関係強化も始まっている。
今年4月15日、ドイツの原発3基が稼働を終えた。東京電力福島第1原発事故(2011年)を受け、メルケル前政権はいったん決めていた原発延長を見直し、本来は22年末までに全原発を停止することを決めていた。ウクライナ戦争の影響を受けた国内エネルギー供給の逼迫(ひっぱく)を受け、4カ月半延長されたものの、今回稼働を停止した。ミュンヘン工科大学で研究用原子炉が稼働したのは1957年。ドイツは66年にわたる原発の歴史に終止符を打った。
電源の4割消滅へ
メルケル前政権は、石炭・褐炭発電についても38年までの停止を決定している。21年発足のショルツ政権は、停止時期を30年まで前倒しすることも視野に入れる。
22年のドイツの電源別総発電量をみると、原子力は全体の6%を占めていた(図1)。褐炭は20.1%、石炭は11.2%を占め、4割近くの電源が早ければあと7年で消滅することになる。一方、電力消費量は今後も拡大する。国内送電網を管轄する独連邦ネットワーク庁などによると、電力総消費量は22年の600テラワット時弱(テラは1兆倍)から、25年には625テラワット時、30年には最大715テラワット時まで増える。
電力需要の伸びに対し、ドイツは再エネの拡大で対応する方針だ。22年、ドイツでは再エネが発電量の44%を占めた。ショルツ政権は発足時、30年までに再エネの割合を8割まで拡大することを公約とし、今年1月には「再生可能エネルギー法」を改正した。連邦政府は特に、太陽光発電、陸上・洋上風力をさらに増やしていくとして、対策を進めている。
太陽光発電の発電能力は22年末に67.4ギガワットだったが、30年までに215ギガワット、40年までに400ギガワットまで拡大する。陸上風力の発電能力は22年末に58.1ギガワットだったが、30年までに115ギガワットにほぼ倍増させる。22年末に8.1ギガワットだった洋上風力は、30年に少なくとも30ギガワット、45年までに70ギガワットまで増やす計画だ。
ドイツの目標がいかに野心的かは、日本と比較すると分かりやすい。日本の「第6次エネルギー基本計画」によると、日本の30年度の再エネ導入は、太陽光87.6~100ギガワット、陸上風力13.3~15.9ギガワット、洋上風力1.7~3.7ギガワットの見込みだ。
目標通りに進めば、ドイツは30年時点で太陽光では日本の約2倍、陸上風力で約8倍、洋上風力で約15倍の発電能力を有することになる。
送電網で格差解消へ
再エネ割合の拡大は、45年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするドイツの「気候中立目標」の達成になくてはならないが、再エネの拡大で、ドイツは二つの課題を抱えることになる。
一つは、発電エリアと電力消費地の差をどう解決するかだ。風力発電は北部に偏在する一方、人口が多く、産業も集積する電力の一大消費地は西部、南部となる。
22年、ドイツの風力発電(陸上・洋上)は発電量の21.8%を占めた。22年末の陸上風力発電の発電能力累計では、北部の4州が実にドイツ全体の54%を占める。連邦環境局によると、標高100メートルの風の強さは、ドイツ全国の平均が1秒当たり5.6メートル(12~21年)なのに対し、北部は6.6メートルで風力発電に適している。国内で海側に面するのは北側(北海・バルト海)だけなので、洋上風力は全て北部に偏在することになる。
こうした「地域格差」の解決策の一つは、送電網の拡充だ。連邦ネットワーク庁は22年、国内の送電会社4社に対して、45年までの送電網計画の策定を指示した。これを受け、4社は今年3月、草案を公表。ドイツ国内の送電需要を37年までに約87.7ギガワットまで拡大するとしている。
連邦経済・気候保護…
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週刊エコノミスト
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