資源・エネルギー

韓国財界あげて“電池大国”へ 製鉄ポスコは「電池の川上から川下まで」 清水岳志

韓国・浦項市で正極材新工場の着工式を開催したポスコ傘下のポスコフューチャーM(2023年4月) 同社提供
韓国・浦項市で正極材新工場の着工式を開催したポスコ傘下のポスコフューチャーM(2023年4月) 同社提供

 韓国はリチウムイオン電池を国策産業と位置づけ、経済界を代表する製鉄最大手のポスコまで動き出した。

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 韓国の主力産業で近年、蓄電池の存在感が高まっている。韓国政府が目指す2050年までのカーボンニュートラル政策や世界の完成車メーカーによる電動化へのシフトに対応するため、サムスンやLG、SKといった大手企業グループが世界シェアでも上位につけているからだ。

 車載用リチウムイオン電池の出荷量でみると22年のランキング(韓国SNEリサーチ調べ)で中国の寧徳時代新能源科技(CATL)がシェア39.1%で首位、2位のLGエナジーソリューション(14.9%)は大差をつけられている。韓国は他にSKオンとサムスンSDIがそれぞれ5位、6位に入ったがトップ10の6社は中国勢だ。

中国除けばシェアトップ

 しかし、中国勢の成績は世界最大のEV市場である中国の内需に支えられており、中国を除いた世界市場のシェアでは、LGエナジーがCATLを抜いて29.7%でトップに浮上する(表)。全体で3位だった比亜迪(BYD)も10位まで一気にランクを落とし、トップ5の3社が韓国勢だ。韓国の電池業界は「自分たちこそバッテリー市場のゲームメーカー」(地場メーカー首脳)と自負する。

 ただし、好調のEV向けとは逆にエネルギー貯蔵システム(ESS)に使われる定置用蓄電池で韓国勢は伸び悩む。世界のESS市場で韓国のシェアは20年の55.0%から22年は14.8%と右肩下がり。LGエナジーは4位、サムスンSDIは5位と、BYD、EVEに抜かれた。

 ESS市場での中国勢の躍進はなぜか。SNEリサーチは「リン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池を用いた低価格攻勢を仕掛けている」と分析する。LFPは、発火リスクが低く安全性が高いのがメリットだ。従来のLFP電池はエネルギー密度が相対的に低いと評価されていたが、性能が改善し、コバルトを使用する電池の代わりとして需要は右肩上がりが続く。

 韓国勢もLFP電池の開発に本腰を入れはじめた。LGエナジーとSKオンは、3月中旬の韓国最大級の電池見本市「インターバッテリー」でLFP電池の試作品を初公開。SKオンのLFP電池は、「従来の製品に比べて寒冷地での使用でも性能の劣化が少ない」(同社広報担当)という。LGエナジーは3月末、7.2兆ウォン(約7600億円)を投じて米アリゾナ州にESS用LFP電池などを生産する新工場建設を発表した。能力は43.3ギガワット時で、北米地域で展開する韓国の電池メーカーとしては最大規模となり、26年の量産開始を目指す。

 米ブルームバーグNEFによると、ESS市場は今後、年平均23%の成長を遂げるという。韓国勢としては先行する中国との差を縮め、シェア奪還を目指したいところ。韓国政府も向こう4年で163兆ウォン(約18兆円)の国費を投じて、電池各社のLFP電池開発を後押しする計画を打ち出している。

ホンダと連携

 急成長が見込まれる2次電池事業には、製鉄最大手のポスコグループも力を入れる。石炭を大量に消費する鉄鋼産業に限界を感じ…

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週刊エコノミスト

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