日本の送電革命 電力大手の所有権に触れないで実現できるか 松崎茂雄
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地域をまたがる広域送電網は、日本の脱炭素を大きく前進させる。実現のカギは、大手電力がどこまで協力するかだろう。
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大手電力会社の供給エリアをまたいで電気を融通する全国広域送電網の整備構想が浮上している。経済産業省の関連団体が2023年3月に、日本全体の長期整備方針を決めた。全体で7兆円の投資で実現すれば脱炭素の大きな推進力になる。
まずは日本海海底に直流送電網
広域送電網の構想は九州と中国地域を結ぶ連系線強化や、関西エリアと中部エリア間の増強など複数ある(図)。注目されているのが、北海道から本州の日本海側にまず200万キロワット分の海底直流送電網を整備する1兆円規模の巨大事業だ。
北海道は土地の広さや風況の良さから、日本屈指の再生可能エネルギーの潜在力がある。しかし現状、再エネの導入は遅い。道内の送電網規模が小さく、太陽光や風力など変動する再エネの調整力が不十分だったからだ。
このため北海道電力は13年から出力2000キロワット以上の太陽光と20キロワット以上の風力を開発するには、大型蓄電池を併設しないと送電線に接続しない要件を出していたが、変動調整のための大型蓄電池が22年に完成。7月から蓄電設備併設の要件は撤廃され、大型風力の開発はこれから本格化する。
北海道内の電力需要は冬のピークでも500万キロワット程度と、首都圏の10分の1以下。人口減が続く北海道で電力消費は今後頭打ち。洋上風力の今後の導入見込みの約8割は北海道や東北、九州に集中する。風力銀座の電気を首都圏に運ぶのが全国広域の送電網構想だ。
ただ、広域送電網の方針は決まったが、個別に進むかは不透明だ。大手電力に送電連系のメリットがないからだ。
日本の電力産業は15年からの電力システム改革で小売り全面自由化や送配電事業のグループ会社化は実施されたが、大手電力に唯一残されたのが、送電網インフラの地域独占だった。
各エリアをまたいだ送電網の広域連系は地域独占を崩す。肝心の事業主体が地域をまたがる越境連系に消極的なのだ。
ここでカギを握るのが、大手電力会社のカルテル問題と情報漏えい問題だ。関西電力、中部電力、中国電力、九州電力の大手電力4社はカルテルを結び、他社エリアに侵入して営業しないよう合意。電力小売り自由化政策を骨抜きにした。公正取引委員会が命じた課徴金は計1010億円に…
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週刊エコノミスト
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