JOLEDの経営破綻でインクジェット式有機EL製造技術は風前の灯火 津村明宏
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有機ELの国策会社であるJOLEDが経営破綻した。これにより、同社が開発してきたインクジェット(IJ)印刷方式による製造技術の行方が懸念されている。
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2023年3月、官民ファンドのINCJ(旧産業革新機構)が出資していた有機ELディスプレーメーカーのJOLEDが民事再生手続き開始の申し立てを行うとともに、ジャパンディスプレイ(JDI)と技術開発ビジネス事業の再生支援に関して基本合意した。JOLEDはパナソニックとソニーの有機EL事業を統合して発足し、世界で初めてインクジェット(IJ)印刷技術による有機ELディスプレーの量産に成功したにもかかわらず、破綻した背景には何があったのか。そこには有機EL製造技術の進展が大きく関わっている。
市場と技術の逆風
スマートフォン(スマホ)に搭載されている有機ELディスプレーは、一般的に真空蒸着と呼ばれる技術で有機EL発光層を形成する。このプロセスは、高精細化を実現できる利点がある一方で、真空中でガラス基板を搬送しながら成膜するため、成膜に時間を要し、製造装置のコストも高額になるという課題がある。
一方、IJ印刷技術は、高精細化では真空蒸着に劣るが、印刷であるためプロセス時間が短く、装置コストも安価にできるのが最大の利点。真空蒸着よりも大型のガラス基板に適用しやすく、モニターやテレビといった中〜大型ディスプレーの大量生産に威力を発揮すると期待されてきた。
だが、技術はそうした流れで発展しなかった。有機ELの次世代製造プロセスは「真空蒸着による発光層の積層化」が主流になりつつあり、この積層化が困難なIJ印刷技術の量産への採用が敬遠されているためだ。現在、テレビ用有機ELとして量産されている韓国LGディスプレーの「WOLED」、韓国サムスンディスプレーの「QD-OLED」は、発光層を積層する構造であるため、製造プロセスに真空蒸着を採用。さらに、ノートパソコンやモニターに有機ELの搭載拡大を図る目的で検討されている次世代製造プロセスでは、真空蒸着で発光層を複数形成し、さらなる高輝度化や長寿命化を実現する流れが固まったため、現状でIJを量産プロセスとして採用する芽がほぼついえてしまった。
付け加えると、有機EL発光層をIJ印刷プロセスで形成したとしても、この発光層に電気を供給する共通層については…
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週刊エコノミスト
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