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投資・運用 日本株 沸騰前夜

PBR1倍割れは投資家による「がっかり」の表現である 川北英隆

キーエンス本社。超高効率経営で知られる(2022年6月、大阪市) Bloomberg
キーエンス本社。超高効率経営で知られる(2022年6月、大阪市) Bloomberg

 日本の株式市場は高値を更新しているが、資本効率という点では日本企業はまだまだ課題を抱えている。

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 足元では日経平均株価が1990年夏以来の高値で推移し、一見活況を呈している日本の株式市場だが、その内実は危機的である。日本を代表するトップクラスの企業が集まっているはずの東証プライム市場でさえ、株価純資産倍率(株価÷1株当たり純資産、PBR)において1倍を割る企業が全体の半数に近く、48.0%(5月26日現在、以下同じ)に達している。国際的に著しく評価が低い株価水準の悲惨さに日本の危機が表れている。

 東証も状況をようやく問題視し、3月31日、「資本コストや株価を意識した経営の実現」を要請した。その資料によると、PBR1倍割れ企業の比率は、米国で5%、欧州で24%となっている。PBRでの米欧との差を東証は深刻に受け止めた。

トヨタも期待満たせず

 PBR1倍割れの問題点は何なのか。結論は、企業の営む事業の収益率が「投資家の期待する収益率」に達していないということである。「投資家の期待する収益率」とは、東証が指摘した資本コストである。企業が調達する資金に、投資家が課すコストでもある。

 例えば、投資家が10%の収益が得られると期待(資本コスト10%)し、100億円の資本を株式の形態で企業に託したとしよう。しかし蓋(ふた)を開けてみると、8%の収益しか得られない。その結果、何が生じるのか。

 株式を他の投資家に売却してみれば、その評価の低さから事態は明白になる。企業は8億円(100×8%)の収益を生み出し、また資本コストが10%だから、80億円なら株式を買おうという投資家が現れる。というのも、80億円で買って8億円の収益が得られるのだから、買い手にとっての収益率は10%と計算でき、資本コストと等しい。

 以上を企業から見れば、当初に受け入れ、帳簿に記した100億円の株式(資本)の時価は80億円ということになる。つまりPBRは0.8倍と算出できる。

 PBR1倍割れとは、投資家による「期待外れ」や「がっかり」の表現である。そんな期待外れが著名企業にも散見される(表)。

 日本を代表する企業、トヨタ自動車でさえ、PBRは0.93倍と、わずかだか1倍割れである。プロの投資家に言わせると、電気自動車(EV)での出遅れが背景にある。現在の収益力を将来の事業展開に生かせておらず、経営に果敢さが不足する。だから「がっかり」なのである。

 銀行業界にはPBR1倍割れが目立つ。三菱UFJフィナンシャル・グループを代表とする3メガバンク、郵貯、地銀など、人口減少社会なのに銀行の数が多すぎる。このため過当競争に陥り、収益性が低い。銀行には多くの規制があり、収益ばかりを追求できない。しかし銀行の数が多いということは、社会全体からすれば人材を含めた資源のムダ使いでしかない。

 資源のムダ使いは、実は賃金水準の低さの原因でもある。銀行業界のみならず、日本企業は過当競争に陥りやすく、PBR1倍割れ、資本コスト割れになる。しかし赤字経営でなければ企業は倒産しない。だから企業は賃…

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