マイナス金利で地銀の経営環境悪化 独禁法特例と資金交付で再編加速 杉山敏啓
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地銀の経営統合が年々進み、その数は減少を続けている。背景には再編を促す公的制度の存在があった。
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地銀の数は年々減少している。1990年には地銀・第二地銀を合わせて132行あったものが、2023年は99行となり、地域銀行の数は33年間で4分の3にまで減った。
この間、破綻銀行の受け皿の設立や北九州銀行の新設という増加要因もあったが、合併や破綻による消滅数が大きく上回った。消滅地銀数を年代別に振り返ると、90年代には12行で、この時期は合併よりも破綻による消滅数が多かった。00年代は18行、10年代は6行、20年代は現在のところ4行が消滅した。このように90年以降の消滅地銀数は計40行にのぼる。10年代以降の減少ペースは、それ以前と比べれば鈍化した。
だが、地銀の業界再編の手段は本体合併だけではない。複数地銀による銀行持ち株会社の傘下入りや、親銀行・子銀行の関係になってグループを形成する「経営統合」がある。いったん経営統合した後に本体合併する事案もあるが、合併はせずに個別銀行ブランドを残すグループも多い。経営統合の道を選ぶ地銀数は増勢が加速している(図1)。
昨年以降の再編の事例を見ても、22年4月に青森銀行とみちのく銀行が経営統合してプロクレアホールディングス(HD)、同10月に愛知銀行と中京銀行が経営統合してあいちフィナンシャルグループ(FG)が発足したほか、23年4月には横浜銀行が神奈川銀行を連結子会社化した。また、同年6月には八十二銀行が長野銀行を完全子会社化し、ふくおかFGは同年10月に福岡中央銀行と経営統合を予定する。
56行が「非統合」
地銀再編の動きとは距離を置き、単独での生き残りの道を選ぶ「非統合地銀」は、23年6月現在、99行中56行ある。数としては減少続きであるが、依然として全体の過半を占める「地銀業界の主流派」といえる。
大都市圏を主な営業地盤とする都市銀行は、90年はじめに13行であったが、現在では埼玉りそな銀行を含めて5行へと業界再編が進んだ。地方圏を主な営業地盤とする地銀の方が、人口減少の影響を強く受けるため、都銀よりも再編が進みそうな気もするが、都銀と比べればマイルドな再編にとどまっているのはなぜか。一つの大きな要因として都道府県の壁が指摘できる。
47都道府県で本店が所在する地銀が空白というところはない。都道府県ごとにみれば、県内1行が8、県内2行が29、県内3行以上が10である。最多は福岡県の5行で、静岡県の4行がそれに次ぐ。都道府県という枠組みは、銀行業に限ったことではなく、医療や教育などを含めた地域のさまざまな経済社会活動を規定する壁になっている。
地銀業界では、本店所在地の県境をまたぐ本体合併(除く営業譲渡)は、90年以降でいえば山陰合同銀行・ふそう銀行(91年、現・山陰合同銀行)、関西アーバン銀行・びわこ銀行(10年、現・関西みらい銀行)、徳島銀行・大正銀行(20年、現・徳島大正銀行)の3事案にとどまる。
同一都道府県内の地銀再編は、もともと地銀数が多かった大阪府で大きく進展した。90年には本店所在地銀9行がひしめいていたが、現在は2行(関西みらい銀行、池田泉州銀行)だ。他方、もともと地銀数が少なかった県では、県内合併が起きると地域のシェアがかなり高くなるため、再編は長年タブー視され、進展は鈍かった。
だが、日銀がマイナス金利政策を導入した16年以降は、青森、神奈川、新潟、福井、長野、愛知、三重、大阪、福岡、長崎──で、同一府県内の地銀統合が相次いだ。しかも県内トップシェアの地…
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週刊エコノミスト
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