金融引き締めでインフレと賃上げの好循環の火種を消すな 片岡剛士
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早期に金融政策の変更か、時期尚早か──。インフレが高進する中、日銀の「次の一手」について、長谷川克之・東京女子大学特任教授と片岡剛士・Pwcコンサルティングチーフエコノミストの論客2人に語ってもらった。(聞き手=浜條元保/中西拓司・編集部)
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約30年ぶりのインフレ(物価上昇)が日本でも起こり、金融緩和政策をやめて利上げを急ぐべきという指摘がある。私は絶対に反対だ。金融緩和の手じまいを急ぐべきだという意見には、米国のようにインフレを加速させてしまうリスクが念頭にあるが、日本の状況は違うからだ。
米国はコロナ禍の中、2%のインフレ目標を上回るインフレ率を容認する中で、ウクライナ戦争が勃発。財政・金融政策を緩和しすぎた結果、目標の2倍以上の高いインフレ下にある。
コロナの行動変容によって、労働者が想定通りに戻らないという金融政策では対応が難しい状況で、インフレ抑制に向けた引き締めを続けている。
一方の日本は、黒田東彦前総裁を引き継いだ日銀の植田和男総裁は当面、金融緩和を継続する構えだ。
コアCPI(生鮮食品を除く消費者物価指数)は前年比3%を超えているが、エネルギー価格や食料価格の高騰が収まれば、日銀は2023年度後半には2%を下回ると予想している。賃金が上がり安定的に2%を超える状況が続くという確信が持てないからだ。
さらに植田総裁はじめ日銀は、今後米国や中国経済が失速し、外需の落ち込みを通じた日本経済への向かい風の警戒もしている。こうしたリスクがある中、長年染みついたデフレマインドを完全に払拭(ふっしょく)する前に、金融引き締めに動く姿勢を見せれば、インフレと所得増加の好循環の火種を消してしまいかねない。
2度目の異次元緩和は無理
インフレ抑制に向けて早めに金融引き締めに動いた結果、デフレに戻ってしまえば、再び緩和すればいいという意見もあるが、それは不可能だ。
10年前のアベノミクスの経緯を思い出してほしい。12年末、日銀に大胆な金融緩和策を採用させると、異例の選挙公約を掲げて政権復帰した安倍晋三元首相の強力なリーダーシップと、その後ろ…
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週刊エコノミスト
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