超緩和の5年で円の対“金”価値は半減していた 佐々木融
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円建て金価格が史上最高値を更新し、実質金利が大幅なマイナス圏にある事態を見過ごしてはいけない。
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昨年と異なり、日本でもインフレ圧力が強まる中で、日銀とその他主要中央銀行の金融政策に対するスタンスの違いが再び鮮明になってきた。日本以外の主要国中央銀行は予想以上に根強いインフレ圧力を背景に再び金融引き締めスタンスを示し始めた。一方、日本銀行はコアインフレ率(生鮮食品を除く総合)が3~4%台に達してもいまだ2%のインフレ目標の持続的達成に自信が持てない様子で、マイナスの政策金利を維持している。
インフレ下の金融緩和
もっとも日銀が金融引き締めには、慎重にならざるを得ない状況もある。日本経済は10年に及ぶ異例な金融緩和を経たことで、経済構造が金利上昇に脆弱(ぜいじゃく)となってしまっている。住宅ローンを含む家計向け与信の大半が変動金利で、短期金利の引き上げは慎重にならざるを得ない。
また、短期金利引き上げは日銀、財政にも問題を引き起こす。政策金利を引き上げると、日銀は過去10年で約10倍に拡大した当座預金残高に対しての利払いを行う必要が生じ、大幅な損失を計上するリスクに直面し、これは最終的には財政の負担となる。
加えて、日銀が積極的に国債を買い支えている結果、政府が国債価格の下落、つまり長期金利上昇を気にしなくなってしまったため、新たな支出拡大が新規国債発行に依存することが定着している。日銀は短期金利どころか、長期金利に対する歯止めを外すことにもちゅうちょせざるを得なくなっている。
こうした中で、日本のインフレ率は今後高止まりする可能性が高い。少子高齢化の波がいよいよ労働市場にも及び、退職者に比べて新たに労働市場に参加してくる若年層が圧倒的に少ないという状況が今後一段と悪化する。女性の就業率も過去10年程度で米国を上回るところまで上昇しており、労働市場のタイトさを大きく緩和してくれる要因として先行き期待はできない。
また、いつの間にか先進国の中で低賃金国になってしまった日本に、稼ぎに来ようという外国人労働者も多くはないだろう。この結果、労働需給が構造的に逼迫する中、日本企業は引き続き賃金の引き上げ圧力に直面し、販売価格を引き上げていかざるを得ないだろう。
日本ではインフレ率が高止まりする中、超金融緩和から抜けられない状態が続くこととなり、実質金利は前例のない、大幅なマイナス圏に長期間とどまる可能性が高い(図1)。この結果、円という通貨の価値は下落するため、株価や不動産価格は上昇することとなり、しばらくはむしろ歓迎されるかもしれない。
また、高いインフレ率を許容しながら、金利の上昇を意図的に抑えることにより、増加の一途をたどる政府債務残高の対GDP(国内総生産)比も低下してくる可能性が高まる。おそらく低下してきた比率をみて、政府はさらに歳出を増やすであろうから、円という通貨の価値下落はさらに加速することになるだろう。
円の価値下落はすでに静かに、かつ大きく進行している。金の円建て価格は史上最高値を更新し続けているが、過去5年間で…
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週刊エコノミスト
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