投資・運用

真の円安リスクは“日本人の円売り”だ 唐鎌大輔

昨年10月、1㌦=150円台に
昨年10月、1㌦=150円台に

 これまでは「日本人の円売り」を抜きにして起きた円安だった。「家計の円売り」が加われば、そのインパクトは半端ではない。

>>特集「円安インフレ襲来」はこちら

 多くの識者の想定に反し、2023年も円安・ドル高相場が続いている。この原因をどこに求めるかは識者により見方が異なるものの、筆者は一貫して円相場を取り巻く基礎的需給環境の変化から目をそらすべきではないという立場を続けてきた。

 需給環境といった場合、国際収支統計を軸に議論を展開するのが基本だが、家計の金融資産構成の動きに着目する価値も大きい。周知の通り、日本の家計金融資産は2000兆円にも及ぶため、多少の構成変化でも大きなインパクトになる。22年12月末時点で日本の家計金融資産は97%が円建て、しかも55%が現預金という保守的な構成にある(表)。リスクテークに動く余地は大きく、その行き先が外貨だった場合の為替(ドル・円相場)への影響は気がかりである。

若者の米国株投資

 この点、気になる報道も断続的にある。例えば、今年5月1日の『日本経済新聞』は「外貨資産『増やした』4割 若手投資家、日本より米国株」と題し、若年層ほど外貨建て資産の比率を増やしていることを報じた。

 かねて筆者はこうした「家計の円売り」こそ、円相場ひいては日本経済が抱える最大のリスクではないかと考えてきた。同記事中で紹介されていたアンケート結果に目をやると「外国企業の方が日本企業よりも期待リターンが高い」「右肩上がりの成長が不可能となり、日本株を長期で保有するにはリスクがある」など、内外の成長格差への意識が透ける。これから投資をする個人にとって、国内よりも海外というのはおおむね共通する志向だろう。

 こうした「国内から海外へ」という資産運用の動きは、今に始まったものではなく、過去数年の潮流である。例えば、投資信託経由の株式売買動向に目をやると15年以降、じわじわと買いが積み上がる外国株式に対して国内株式の取得意欲は非常に弱く、19年以降は国内から海外への代替が進んでいるかのような構図にも見える(図)。この統計からでは、為替ヘッジの有無までは判別できないが、こうした外国株式(恐らく多くは米国株式)への投資を通じた円売りも今次、円安局面に寄与しているのではないか。

 もっとも前述した通り、家計金融資産の半分以上は、まだ円建ての現預金に集中している。よって、外国株式への投資などが過去に比べて盛り上がっているのは事実としても、そうした「家計の円売り」が資金循環構造を根本的に変容させるような状況には、まだない。

 だが、日本人は合理性よりも「皆がやっているからやる」という空気で意思決定をしやすい。冒頭の日経報道で指摘されたように、多くの個人が外貨建て資産をこのまま増やしていけば、どこかでそれが多数派として空気を形成する。もはや窓口で高い手数料を払って外貨を購入する必要はなく、スマートフォン操作で簡単に外貨建て資産を購入できる時代だ。「動く時は一気に動く」という恐れはある。

 実際、「半世紀ぶりの安値」が続く実質実効為替相場が象徴するように、日本が海外に対して持つ…

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