年内に151円を超える円安はないと考える根拠 吉田恒
有料記事
構造的円安と、循環的円安の「行き過ぎ」を解説する。そこからは、一段の円安はないことがわかる。
>>特集「円安インフレ襲来」はこちら
ドル・円相場は一時、1ドル=130円を割れるまでドル安・円高が進んだが、5月後半には同140円までドル高・円安に戻った。では、さらに2022年10月に記録した1ドル=151円を更新して一段とドル高・円安になるのだろうか。
基本的に、その可能性は低いだろう。ドル・円相場が1ドル=151円を大きく更新するドル高・円安は早くても27年以降といった具合に、まだまだ遠い先のことになると予想する。
大規模な円買い介入
1990年以来、実に32年ぶりとなる1ドル=150円を超えたドル高・円安は、22年10月に同151円で終止符を打った。なぜ、ドル高・円安は151円で終わったのか、あなたはどう理解するだろうか。
当時のドル高・円安は、インフレ対策の米国の大幅利上げに、基本的に連動したものだった。そんな利上げが終わったわけでもなかったのに、なぜドル高・円安は1ドル=151円で終了となったか。
米国の利上げは、その後も続いたが、インフレがピークアウトしたことから、米国の市場金利が一旦頭打ちになった影響はあっただろう。そうした中で、日本の通貨当局は、22年9月から為替市場へ介入、ドル高・円安を止めるべく大規模なドル売り・円買い介入を断続的に実施したため、その効果もあったと考えられる。
ドル・円相場を近付いて見る、いわば「虫の目」からすると、そうした理解で基本的にはよかった。ただし、遠巻きに見る「鳥の目」からすると、違った理解になる。要するに、円安は「限界」に達したことから終わったということではないだろうか。
22年10月にかけて1ドル=150円以上に上昇したドル・円相場は、過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)を3割以上、上回った。このように5年MAを3割以上、上回ったのは80年以降でも2回しかない。その2回とも、5年MAを3割以上、上回ったところでドル高・円安は終わった(図1)。
以上のように見ると、5年MAを3割以上、上回ったところがドル高・円安の限界圏だったということ。つまり22年10月に1ドル=150円を超えたドル高・円安も、限界圏に達しつつあるところで、米国の金利のピークアウトや日本の通貨当局による大規模なドル売り・円買い介入をきっかけに、ドル高・円安が終わったというのが、正確な理解ではないだろうか。
上下3割を循環
5年MAを3割以上、上回ったところがドル・円上昇の限界圏になってきたわけだが、これは逆方向、つまりドル・円相場の下落についてもおおむね当てはまる。以上から分かるのは、ドル・円相場は、5年MAを軸にプラス・マイナス3割の範囲内を循環するパターンが続いてきたということだ。
5年MAを3割以上、上回るか、下回るかといった具合の限界的な円安、円高、それは過去40年余りで5回しかなかった「珍しい現象」なので、それで記録した水準の更新には5~24年と、やはり長い時間がかかった。以上を参考にすると、22年10月に記録した1ドル=151円を本格的にドル高・円安方向に更新するのは、早くても5年以上先、つまり27年以降といった見通しになる。
22年から繰り返される円安の動きは、日本経済の構造変化が大きく影響する「構造的円安」である。した…
残り1343文字(全文2743文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める