経済・企業

値上がりが続いても“デフレ脱却”が宣言されない理由 山口範大

月例経済報告等に関する関係閣僚会議に臨む岸田文雄首相(右)。左は日銀の植田和男総裁(5月25日)
月例経済報告等に関する関係閣僚会議に臨む岸田文雄首相(右)。左は日銀の植田和男総裁(5月25日)

 日本はデフレをいつ脱却できるのか。政府は主に4指標で判断するとしているが、いずれも持続性に欠け、「脱却宣言」は約10年にわたって宙に浮いている。

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 政府は2013年以降、日本経済がデフレ状況にはないとの認識を示している。一方で「物価が持続的に下落する状況を脱し、再びそうした状況に戻る見込みがないこと」と定義されるデフレ脱却宣言は出されていない。結果「デフレ状況にはないが、デフレ脱却もしていない」という評価が10年近く続いている。

4指標で総合判断

 デフレ脱却の判断に当たって、政府は①消費者物価指数(CPI)、②GDP(国内総生産)デフレーター、③GDPギャップ、④単位労働コスト──の4指標などを参照するとしている。①②は物価の指標。③④は物価動向の背景を示す経済指標だ。

①CPI

 最も代表的な物価指標であり、消費者が日々の生活で直面する小売価格の動向を示す。品目別の分解が可能で速報性も高い。ただし、価格変動の背景について、それが需要の変動に由来するものか、供給要因によるものかをCPIのみから知ることはできない。

②GDPデフレーター

 CPIが消費面の物価動向を示すのに対し、GDPデフレーターは、設備投資面や公的需要面などを含めた、より包括的な物価の動きを示す。また、輸入が控除されるというGDPの特性上、輸入物価の上昇は、国内の物価に100%転嫁されない限り、GDPデフレーターを押し下げる。このため、GDPデフレーターは国内要因によるインフレ圧力の強さを反映する。

 CPIとGDPデフレーターはいずれも物価の指標だが、両者は逆の動きをするケースもある。例えば1次産品の価格が世界的に高騰した08年、CPIは前年比プラス1.4%上昇した。うち、0.7ポイントがエネルギーの寄与である。一方、GDPデフレーターは同マイナス0.9%で、輸入コスト増分の国内価格への転嫁が不十分だったことが分かる。CPIとGDPデフレーターを組み合わせることで、物価上昇の要因をより正確に把握できる。

③GDPギャップ

 経済全体の供給力と総需要との差である。GDPギャップがプラスであることは、総需要が供給力を上回っており、需給面から物価上昇圧力がかかっている状況であることを示す。

④単位労働コスト

 1単位のモノを生産する際に必要な賃金を示す。単位労働コストの上昇は、生産性の改善幅を上回って賃金が上昇していることを意味し、企業から見て雇用コスト増を販売価格に転嫁する誘因が高まっている状況を表す。

 デフレ脱却宣言の検討に当たっては、この4指標がプラス圏で推移することが重要な要素となる。ただ、明確な基準はなく、最終的には総合判断で決定される。

 長年にわたり、4指標がそろってプラスとなった時期は限られる(図1)。CPIが上昇した局面でも、08年のように、GDPデフレーターの動…

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週刊エコノミスト

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