ラピダス始動 最先端ロジックで世界に挑む 津村明宏
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最先端の半導体を製造する5兆円の巨大プロジェクトが始動した。成功のカギは、国内の半導体需要の掘り起こしだ。
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次世代と呼ばれる回路線幅2ナノメートルプロセスの実現とそれを用いた半導体の国内製造を目指して設立された国策ファウンドリー(半導体の受託生産)企業「Rapidus(ラピダス)」。米IBMやベルギーの国際的研究機関であるimecと開発で連携するとともに、北海道千歳市の工業団地「千歳美々ワールド」に新工場の建設を決定した。鹿島建設の設計・施工で1棟目の工場棟「IIM-1(イームワン)」の建設を9月から開始し、2025年1月に完成させ、25年にパイロットライン、27年に量産ラインを立ち上げる予定だ。
最先端3世代に特化
ラピダスは、まず工場を2棟整備し、将来的には4棟体制とする方針。IIM-1で2ナノメートルプロセスでの先端ロジック半導体の量産に向けた検証を行うほか、AIなどを駆使した生産の全自動化技術の検証も進める。前工程と後工程を一貫して行う計画で、後工程に関しては三次元実装、チップレット技術などの活用も検討する。次いで建設するIIM-2に関しては、1.4ナノメートルプロセスなどさらに先端のプロセスを用いたラインを構築する方針。最終的には、最先端プロセス3世代の各製造棟とR&D棟の計4棟体制の構築を視野に入れている。
ラピダスの計画に対し、経済産業省は全面的にバックアップする姿勢を表明。すでに22年度にNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/先端半導体製造技術の開発」事業を通じて700億円が助成され、23年度は千歳工場の基礎工事などに2600億円を拠出することが決まった。西村康稔経済産業相は「日米欧の半導体協力の象徴ともいうべきプロジェクトであり、総力を挙げてしっかりと支援をしていきたい」とし、今後も継続支援する方針を示している。
ラピダスは、開発から量産までに総額5兆円の投資が必要と試算している。巨額の費用と2ナノメートルプロセス量産化の技術的ハードルが極めて高いこと、そして日本には現在40ナノメートル以降のプロセスがなく技術者がほぼいないことから、「時すでに遅し」「20ナノメートル以下のエンジニアは日本に集まらない」「国家プロジェクトは最後には失敗する」といった否定的な意見が聞かれるが、筆者は「今回がラストチャンス。日本の新たなチャレンジが始まったのだ」と捉えている。
「官民挙げて」の意義
まず、「最先端ロジック半導体を国内で量産する」と決断したことを尊重したい。現在、半導体市場における日本の生産金額シェアは8%程度(図)であり、1980年代後半に記録した50%から落ちるだけ落ちた。この間、韓国や台湾、中国などが国家的産業育成策を敷いて半導体産業の強化に努めたが、日本は落ちていくシェアに対して特段の対応策を決めないまま時間だけが過ぎた。昨今の米中摩擦や経済安全保障で半導体の重要性が再認識されたという背景があるにせよ、チャレンジすると決断したことの意義は大きい。
確かに、国家プロジェクトには失敗例も多いし、日本政策投資銀行から資金支援を得ながら12年に経営破綻したエルピーダメモリ(現在は米マイクロンが買収)を引き合いに出す人もいる。しかし、70年代に旧通産省の肝煎りで組織された国家プロジェクト「超LSI技術研究組合」が大成功を収め、これが80年代の日本半導体シェアの向上に大きく貢献したという歴史もある。超LSI技術研究組合は、製造技術の標準化や新技術の実現といった共通テーマにフォーカスしたことで次々と成果を生み出し、半導体露光装置「ステッパー」や電子ビーム描画装置などを誕生させ、結果として国内半導体メーカーの使用する製造装置の70%以上が国産化されることにもつながり、現在も日本の半導体製造装置メーカーが世界シェアの30%以上を維持するという礎を築いた。驚くべきは、76年当時、日本の半導体売上高がわずか1649億円だったにもかかわらず、超LSI技術研究組合には700億円という巨費が投入された点だ。官民を挙げて、半導体産業を強化するという姿勢がいかに強固であったかをうかがい知ることができ、これは現在のラピダスに通じるところがある。
ただ…
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週刊エコノミスト
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