経済・企業

先の物価上昇に「自信ない」と日銀総裁 賃上げは瞬間風速か 永浜利広

討論会に臨む日銀の植田和男総裁(左)と米連邦準備制度理事会のパウエル議長ら(欧州中央銀行提供)
討論会に臨む日銀の植田和男総裁(左)と米連邦準備制度理事会のパウエル議長ら(欧州中央銀行提供)

「多くの要素の影響を受けるが、ここにいる3中央銀行の(利上げの)政策の影響もある」。日銀の植田和男総裁は6月28日、ポルトガルで開かれた欧州中央銀行(ECB)の討論会で足元の円安の原因を質問され、ジョーク交じりでこう答えたという。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長ら3中銀トップも同席していた。来年以降の物価上昇について「あまり自信がない」とし、「ある程度確信を持てるようになれば政策変更の十分な理由になり得る」と率直に語った。

 2022年度の消費者物価指数(CPI、生鮮食品を除く)は、前年度比3.0%上昇となった。約40年ぶりの水準で、物価と賃金の上昇が進み、長年のデフレから脱却して経済の好循環が起こる──というインフレシナリオに期待がかかるが、確かに「自信」や「確信」を持てる状況ではない。

「悪いインフレ」

 インフレには、需要(ディマンド)の高まりで起こるディマンドプル・インフレと、原油・原材料価格の高騰などで起こるコストプッシュ・インフレがある。ディマンドプル型は、旺盛な需要でモノが売れる→物価上昇→給料アップ→購買力アップ──というサイクルで、「良いインフレ」とされる一方、コストプッシュ型は、物価上昇でモノが売れない→企業はもうからない→給料が上がらない→購買力低下──という循環で「悪いインフレ」に当たる。日本はコストプッシュ型の要素が大きいとみている。

 賃金面で見れば、23年春闘は30年ぶりの賃上げ水準となったが、4月の毎月勤労統計調査には効果は表れなかった。4月分の名目賃金(現金給与総額)の確定値は前年同月比0.8%増で、3月分(同1.3%増)より失速した。日銀は名目賃金については3%を目安にしているがほど遠い。企業にとっては、今回の賃上げは急激な物価高に対する従業員の「生活補償」の意味合いが強いようだ。原材料など輸入物価も一服し、賃上げが「瞬間風速」に終わ…

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