米政権の対中半導体規制 中国の反撃で巨大市場失う恐れ 豊崎禎久
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米の「中国封じ込め」政策は、半導体産業の「分断」を通じ、自らの首を絞めることになりかねない。
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「半導体を巡るワシントンと北京の争いがエスカレートしたら、米国ハイテク産業には莫大(ばくだい)な損失」──。半導体企業の中で株式時価総額が世界首位の米エヌビディアのジェンスン・フアンCEO(最高経営責任者)は、英経済紙『フィナンシャル・タイムズ(FT)』のインタビュー(5月24日付)にこう答えた。
フアンCEOはFT紙に対し、バイデン米政権が昨年10月に示した対中半導体規制を次のように批判した。「中国が米国から半導体を買うことができなければ、彼らはいずれ自分たちで作る。だから米国は慎重であるべきだ。中国はテック産業にとても重要な市場だ」──。彼の指摘は、エヌビディアの経営トップとしてだけでなく、SIA(米国半導体工業会)全体の意見を代弁するものであろう。
米の「恫喝法」
バイデン政権は昨年10月、包括的な対中半導体規制を発表。主な項目は表の通りである。一言でいえば、中国には先端的な半導体は一切増産させないという、米国の意思を示すものだ。
米政府は、最先端の半導体製造に必要なEUV(極端紫外線)露光装置を製造するASMLが本社を置くオランダ政府、東京エレクロトンなど有力製造装置メーカーを擁する日本にも協力を呼びかけ、両国は同意したと報じられている。ASMLは、EUV露光装置だけでなく、一部先端半導体の製造に必要なDUV(深紫外線)露光装置の中国での販売も禁じられた。米国からの要求に対し、オランダ政府はこの点で強く抵抗したとされる(国立国会図書館 調査と情報No.1234「米国の半導体関連政策の動向」角田昌太郎)。
米政府は、トランプ前政権時代から、2019年5月に中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)などを、20年12月には中国の半導体受託製造最大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)を、米国の安全保障上の懸念企業に指定して、生産・開発に必要な技術の輸出を規制してきた。昨年10月の輸出規制は、トランプ時代をはるかに上回る厳しい内容であり、半導体自給率アップを国策として進めてきた中国にとり、この規制を長期間にわたり続けられたら厳しいことは間違いない。
しかし、世界最大の半導体市場と最大級の装置市場を持つ中国に対して、「水も漏らさない規制」を5年、10年と継続することが可能か。むしろ、早くもほころびがみえているのではないか。
韓国サムスン電子は中国・西安に、台湾積体電路製造(TSMC)は南京と上海にそれぞれ半導体工場を持つ。米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月12日付)によると、バイデン政権は韓国と台湾の大手半導体メーカーに対し、半導体の対中輸出規制の適用除外措置を延長し、中国における既存事業の継続や拡大を認める方針だ。昨年…
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週刊エコノミスト
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