蓄電池に7兆円 全固体型の本命は硫化物系 東哲也
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政府のGX基本方針では、蓄電池産業に今後10年間で7兆円以上の投資が見込まれる。次世代電池として有力なのが全固体型だ。
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リチウムイオン電池(LiB)の世界の市場規模は、2022年に11兆円を超えており、30年には18兆~20兆円に達すると予測されている。需要のけん引役は、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)などで、22年はこれら電動車用途が全体の8割まで拡大した。EV向け需要が今後も拡大していく一方で、小型民生機器(スマートフォン、タブレット、ノートパソコンなど)や、電動バイク、エネルギー貯蔵システム(ESS、定置式蓄電池など)、ドローン向けなどでも需要が拡大する見込みで、中長期的に需要は堅調だ。
LiB需要拡大の最大の要因は、エネルギー密度が高い点だ。エネルギー密度とは「電気をどれだけ貯蔵できるか」で、密度が高ければスマホの待ち受け時間は長くなり、EVの航続距離も伸びる。エネルギー密度は電極(正極、負極)の容量と電圧の掛け算(積)で表され、重量で割ると「重量エネルギー密度」、体積で割ると「体積エネルギー密度」が算出できる。
重量エネルギー密度が高いと軽量化、体積エネルギー密度が高いと小型化が可能になる。LiBは電極容量が高く、また正極が高電位、負極が低電位のため、高電圧に対応できる(正負極電位差が電圧)。なお、LiBのエネルギー密度はニッケル水素電池の2倍以上、鉛電池の4倍以上ある。
LiBは充放電速度も速く、EVやフォークリフト、電動工具などの動力系に有効なほか、急速充電にも向いている。加えて、コスト面でも過去10年間で90%以上価格が下がっており、最も安い鉛電池に近づきつつある。現時点では、LiBは性能面、コスト面で圧倒的に優れているということだ。
放電速度は4~5倍
「全固体電池」(全固体LiB)とは、LiBに使われる部材を一部変更した技術だ。LiBは電極、電解液、セパレーターなどで構成され、酸化還元反応により、充電時は負極材にリチウムイオンが入り(酸化)、放電時は正極材にリチウムイオンが入る(還元)。このリチウムイオンが動く際に電子を引っ張ることで充放電される。
放電は負極と正極の電位差解消により行われる(図)。部材の役割は、電極がリチウムイオンの吸蔵・放出、電解液がリチウムイオンを通す媒体。セパレーターは正・負極を遮断し、正・負極間のリチウムイオンを透過させるが、同時に異常電流による高温発生時に細孔を溶融閉鎖するシャットダウン機能も持つ。
全固体電池は、LiBと同様に前述の原理で充放電するが、電解液の代わりに「固体電解質」が電極間に積層されているので、電解液やセパレーターは不要だ。固体電解質は全固体電池の鍵となるもので、固体だとリチウムイオン輸率(リチウムイオンが移動する割合)が高くなり、イオン伝導率が電解液以上になるため、充放電速度が従来のLiBの4~5倍程度速い。10倍以上と発表しているメーカーもある。
LiBで1時間かかっていた充放電が、30分、20分に短縮されるといった感じだ。EV向けに実用化すれば、1回の充電時間は短く、かつ大幅な航続距離の延伸が期待できる。全固体電池の開発に携わる主な国内外企業は表1の通り。電池、電機、自動車、石油元売り会社など多様な企業が参画している。うち自動…
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週刊エコノミスト
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