鉄鋼業に3兆円 高炉を使う水素還元製鉄の実証試験へ 長野孝
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政府のGX基本方針では鉄鋼業への投資をまず今後10年間で3兆円と見込む。その柱となるのが水素還元製鉄だ。
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鉄鋼業界の代表的設備である高炉は、鉄鉱石を原料とする。これに含まれる酸素を取り除いて鉄を取り出すため、石炭を蒸し焼きにしたコークスを還元剤として使用する。この方法は、高い品質の鉄を大量生産でき、高炉を持つことが鉄鋼大手の象徴ともされてきた。しかし、コークスを使う過程で1トンの鉄を作るのに、2トン近くの二酸化炭素(CO₂)が生じるため、脱炭素を進めるとなると、従来の高炉による製鉄方法を続けるのは困難になる。
高炉でのCO₂発生を劇的に減らすには、コークスに代わる還元剤を探す必要がある。そこで注目されているのが水素だ。鉄鉱石を水素で還元すれば、鉄鉱石に含まれる酸素は水素と結合して水(H₂O)となるので、CO₂は生じない。日本製鉄やJFEスチールといった鉄鋼大手は、早くからこの「水素還元製鉄」に目を付け、「COURSE50」と呼ばれるプロジェクトで、2008年から新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託を受けて製法開発に取り組んでいる。
現在、日本製鉄東日本製鉄所君津地区に設けられた試験用小型高炉で実験が行われている。ただし、この実験では、投入するコークスをすべて水素に置き換えるのではなく、部分的に置き換える取り組みを行っており、CO₂の削減効果は10%強にとどまっている。
高炉では、コークスが還元剤の役割だけでなく、その発熱反応によって、炉内の温度を高める役割も担っている。一方の水素は、反対に「吸熱反応」を持つため、水素を大量に投入すると、炉内が冷えてしまう。そうなれば鉄が溶けず、生産ができない。
海外はシャフト炉導入
世界の鉄鋼生産第2位であるインドのアルセロール・ミタル社など、海外の鉄鋼大手も水素還元製鉄を志向しているが、日本と違い高炉ではなく、コークスと石灰石、ゴミを投入する「シャフト炉」を使うことで、鉄鉱石から直接還元鉄を取り出す製法の確立を目指しており、高炉は将来、廃炉とする予定だ。
還元鉄の生産設備自体は、神戸製鋼所の機械系事業部門の米国子会社が設計した「ミドレックスプラント」(シャフト炉の一種)が代表的で、日本では使われていないが、すでに世界では年間1億2000万トンの生産実績がある。コークスではなく天然ガスを還元剤とすることで、CO₂排出量が減り、さらに生産プロセスの一部で水素を使う技術も確立されている。この製法は脱炭素にかじを切りやすいため、海外では新設計画が急増しており、アルセロール・ミタル社はベルギーやスペイン、カナダにある自社の製鉄所など、多くの国での導入を決定している。
ただし、この直接還元鉄を取り出す生産設備にも弱点はある。1基当たりの生産能力が大型高炉のほぼ半分となるため、生産性に劣る点だ。アルセロール・ミタル社の場合、廃炉を予定している高炉は比較的小さなもので、さらに直接還元製鉄法への転換のために各国政府から助成金を獲得しているので、中には約2000億円かかる設備投資の自己負担…
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週刊エコノミスト
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