CO₂回収・貯留に4兆円 低コスト化と環境整備が急務 佐藤智彦
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二酸化炭素(CO₂)を回収して、地中深くに閉じ込める「CCS=Carbon dioxide Capture and Storage」。GX基本方針は今後10年間で官民合わせて4兆円以上を投資するとしている。
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今年2月に閣議決定されたGX基本方針で、二酸化炭素(CO₂)の回収・輸送・貯留(CCS)についても2030年までの事業開始に向けた環境整備が目標として掲げられた。そのための投資額としては、今後10年間で4兆円以上が必要とされている。
CO₂の削減手法は、CO₂発生前の対策と発生後の対策に大別される。前者は電化や燃料転換によりCO₂の発生自体を減らす手法が代表例である。一方、後者は発生してしまったCO₂を処理する手法であり、CCSは大気放出前に回収を行う手法である。
工場などのCO₂の排出源をみると、電化や燃料転換での対応が難しい熱供給に用いられるボイラーや工業炉などの設備や、対応できたとしても一気に転換することが難しい設備があり、それらの設備から排出されるCO₂の削減手法としてCCSは期待されている。事業用発電、鉄鋼業、化学工業などのCO₂排出削減が困難な産業でもカーボンニュートラル(CN)実現に向けてはCCSが不可欠な技術と目されている。
GX基本方針では、50年の段階で1.2億~2.4億トンのCCS実施が期待されており、その第一歩としてエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が今年6月、「先進的CCS事業」として7件のプロジェクトを選定した。30年までにCO₂の年間貯留量約1300万トンの確保を目指し、ENEOSや石油資源開発、INPEXなどの企業が参画している。
化学吸収法が実用段階
CCSは、CO₂を多く排出する設備からCO₂を分離回収(Carbon dioxide Capture)し、輸送し、長期間保持可能な地層に貯留(Storage)する技術である。分離回収を行う技術は、化学吸収法、物理吸収法、物理吸着法、深冷分離法、膜分離法などの手法があり(図1)、原理的にはCO₂含有ガスからCO₂のみを吸収・吸着・透過させることにより分離回収する。それぞれの回収技術は、CO₂含有ガスの性状により大まかに向き不向きがあるが、圧力や濃度が選択する上での重要な指標とされている。
現状、最も実用段階にある化学吸収法は、吸収塔にてアミンなどのアルカリ性水溶液(吸収液)にCO₂含有ガスを接触・吸収させ、再生塔にて熱を加えて吸収液からCO₂を放出させることで高純度のCO₂を分離回収する。リーディングカンパニーとしては三菱重工業が挙げられる。同社は、関西電力と共同開発した吸収液(KS-1、KS-21)やプロセスを強みに、世界各地に15基の商用CO₂回収プラント納入実績を有し、さらに3基の建設を進めている。
他方、膜分離法は、いまだ商用化に至っていないが、将来的なコスト低減可能性が高いとされ注目されている。住友化学は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によるグリーンイノベーション基金事業に採択され、CO₂濃度が10%以下…
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週刊エコノミスト
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