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経済・企業 GX150兆円

自動車に34兆円 開発の中心は燃料電池トラック 桃田健史

トヨタと日野が開発した大型燃料電池トラック トヨタ自動車提供
トヨタと日野が開発した大型燃料電池トラック トヨタ自動車提供

 政府のGX基本方針では、自動車産業への投資を今後10年で34兆円以上と見込む。中でも熱い視線が注がれているのが燃料電池車だ。

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 世界の自動車産業界では、水素への注目が高まりつつある。背景には、ここにきて、各国が水素活用の政策を次々と打ち出していることがある。欧州連合(EU)が昨年5月、「リパワーEU」計画を公表し、ロシア産化石燃料からの脱却と再生可能エネルギー、水素への切り替えを表明したほか、米エネルギー省は今年6月、「国家クリーン水素戦略とロードマップ」を発表。中国は2022年3月に「水素エネルギー産業発展中長期計画」を策定している。

 こうした世界の動きをにらみ、自動車メーカー各社では、水素に関する事業計画が動き出しているが、計画の中心は、水素を電気と水に分解し、その電気でモーターを駆動させて走る「燃料電池自動車」となっている。とりわけ商用車の分野で燃料電池車を開発する動きが活発化している。

次世代セルを初公開

 世界の自動車メーカーの中でも、特に燃料電池車について詳細な情報公開を行っているのがトヨタ自動車だ。直近では6月8日に、同社の東富士研究所(静岡県)で「トヨタテクニカルワークショップ2023」を開催。水素関連部品の展示や燃料電池車も含めた次世代自動車の実車試乗を報道陣向けに行った。

 筆者はこのイベントを取材したが、燃料電池の基幹部品となるセル(燃料極と空気極で高分子電解質膜を挟んだ板状のもの)で、性能評価の基準となる「電極出力密度」が、現行比130%の1リットル当たり16.3キロワットとなる次世代セルを世界初公開した。同社の担当者によると、このセルによって、燃料電池システム全体のコストが従来比で半減し、水素を満充填(じゅうてん)した場合の航続距離が、現行比で20%増になるとしている。

 さらに、燃料電池を搭載したことによる整備間隔の長期化と航続距離増大により、燃料電池トラックの整備性が、従来のディーゼルトラックよりも向上したことも大きい。実用化は26年をめどとしている。試乗では、開発中の日野自動車の大型燃料電池トラックを助手席で試乗したほか、同社の小型燃料電池トラックを運転する機会も得た。燃料電池車は実質的には電気自動車であるため、トラックであっても走行中の音は静かで、しかも低速からの出足がとても良い印象を受けた。

米で10万台受注めど

 トヨタは燃料電池車事業を本格的に強化するため、7月にグループ内で水素に関わる開発、生産、営業を一気通貫で行う組織「水素ファクトリー」を新設している。同組織のトップを務める山形光正・水素ファクトリープレジデントは「燃料電池トラックは、欧州、中国、北米の需要が圧倒的に大きく、30年までに年5兆円規模になる」と語り、30年までの外販需要として、すでに10万台分の受注のめどが立っていることを明らかにした。

 この「外販」とは、燃料電池の基本システムを、B2B(事業者間取引)で販売することを指す。トヨタが公表している外販契約は、北米トヨタが今年5月2日に発表した、米大手トラックメーカー、パッカーグ…

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