半導体開発に12兆円 TSMC→ラピダス→光電融合――の3ステップ戦略 西角直樹
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GX基本方針は「脱炭素目的のデジタル投資」の今後10年間の投資額を12兆円と見込む。その軸は次世代半導体の開発だ。
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政府のGX基本方針で中核となる半導体分野では、「先端半導体や不可欠性の高い半導体及び関連サプライチェーン(供給網)の強靱(きょうじん)化」に約5兆円、「次世代半導体や光電融合等の研究開発や社会実装」に約6兆円が割り当てられた。
基本的な戦略は、電力効率の高いチップの開発と普及により、社会の情報処理にかかる電力消費を削減することだ。半導体は「産業のコメ」とも呼ばれ、スマートフォンや自動車、家電など、省エネ効果はあらゆる産業に波及する。経済産業省は半導体分野で10年間に6.4億トンの二酸化炭素(CO₂)排出量削減を見込むが、この数字は参考値ながら全分野で最大で、期待の大きさがうかがえる。
官民連携で重点投資を行う対象は、経済安全保障も考慮した国内技術と生産能力の強化。経産省は技術的な難易度の異なる3ステップからなる戦略を示している。
ステップ1は、最先端ではないが安価で需要の多いIoT(モノのインターネット)や自動車向け半導体などの国内量産を目指す。出遅れた日本の半導体産業のキャッチアップが狙いだ。熊本県に誘致したTSMCの日本子会社JASMがその代表例で、回路線幅が12~28ナノメートル(ナノは10億分の1)のロジック(論理演算)半導体を生産する。熊本県菊陽町周辺には関連工場の開設希望が相次ぐなど早くも波及効果が表れている。
LSTCが米と連携
ステップ2の対象は、より集積度の高い2ナノメートルクラスの次世代半導体だ。政府は昨年、新設した最先端半導体技術センター(LSTC)を舞台に、米国と連携して技術開発を進める。その成果を日の丸半導体メーカーであるラピダスの工場で、2027年ごろから量産化につなげるもくろみである。技術的には大きな挑戦となるが、GAA(ゲート・オール・アラウンド)と呼ばれるより高集積なトランジスタ構造への転換期に、一気に挽回を狙う作戦だ。
ステップ3はより野心的で、日本が世界をリードする将来技術の育成・展開を狙う。半導体チップ内の通信を電気でなく光で行う光電融合が目玉だ。光電融合技術で先行するNTTは、次世代の情報処理基盤であるIOWN(アイオン)構想の最終段階として、チップ内の光化を目指している。限界を迎えつつあるとされる従来の集積化とはアプローチが異なる破壊的技術で、電気処理の最小化によって省エネ効果も飛躍的に高まると期待される。ただし実現時期は30年以降でまだ不確実性が高い。
短期で最先端の離れ業
課題は山積している。上位のステップほど難易度が高いため、1→2→3の順で高度人材の育成や海外からの獲得、生産基盤の構築を進めるのが王道だ。しかし、現実には短期で目標を達成するため、キャッチアップしながら同時に最先端を目指すという離れ業が求められる。参画する企業の顔ぶれも異なる中で、人材やノウハウを共有し、相乗効果を生めるかが課題となる。
また、現状の投資対象は回路形成を行う「前工程」が中心だ。完成品を仕上げる「後工程」は労働集約性が高く、人件費の高い国での生産が難しい。国内生産を進めるため、後工程の自動化技術への大胆な投資にも期待したい。
半導体戦略はGXだけでなく経済安全保障の側面を持つ…
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週刊エコノミスト
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