企業の情報開示 自然・生物多様性も対象へ リスク対応とビジネス創出促す 奥野麻衣子/山口和子
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自然関連の財務情報開示を検討する国際組織TNFDが、9月にも正式な開示の枠組みを公表する。
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国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEP FI)、国連開発計画(UNDP)、世界自然保護基金(WWF)、英環境NGOグローバル・キャノピーが2021年6月に設立した国際組織「自然関連財務情報開示タスクフォース」(TNFD)は3月28日、「自然関連リスクと機会管理・情報開示の枠組み」(ベータ0.4版)を公表した。
TNFDは生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せることを意味する「ネイチャーポジティブ」(NP)に、世界の資金の流れを向けさせることを目指す組織で、新たな非財務情報開示とリスク管理の枠組みを策定している。15年12月に温暖化対策の「パリ協定」が国連で採択されたことを契機に同年、「気候関連財務情報開示タスクフォース」(TCFD)が設立された。TNFDはTCFDの「自然資本・生物多様性版」ともいえる。
TCFDは17年6月に最終報告書を公表した。その内容は、気候変動による短中長期の財務影響や対応戦略、ガバナンスとリスク管理、目標と進捗(しんちょく)の開示などを各企業に促すもので、企業や金融機関が脱炭素社会への移行にかじを切る重要な契機の一つとなった。今年6月26日現在で世界4637社・機関が賛同し、このうち日本はトヨタ自動車やNTTなど1389社・機関が含まれている。
しかし、TNFDはTCFDと異なる点もある。TNFDは市場主導型のイニシアチブとして、金融機関や企業、市場のメンバー40人で構成され、協議グループの「TNFDフォーラム」には1000以上の企業などが参加する。自然関連財務情報開示の枠組み作成では「オープンイノベーション」方式をとり、22年3月以降、ベータ版(報告書案)を段階的に公表することで、市場参加者の意向をくみながら作成を進めている。
9月に最終版を公表
現行のベータ0.4版は、今年9月に予定される正式版(1.0版)公表前の最終案で、TCFDの提言を基に「自然」の特性を反映したものだ。「ガバナンス」「戦略」「リスクとインパクトの管理」「測定指標とターゲット」の四つを柱とし、自然への依存とインパクトや、自然に関する優先地域との接点、バリューチェーン上での自然との関わり、ステークホルダー(利害関係者)との関わりについての開示が追加されている(表1)。
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また、自然関連のリスク・機会の管理や開示を支援するため、リスク・機会を評価するアプローチ(LEAP)や、シナリオ、ターゲットの設定などについて、さまざまなガイダンスも提供。特にセクター向けのみならず、海洋や淡水、土地といった「バイオーム別ガイダンス」も設けた。温室効果ガスの排出を原因とする気候変動に比べ、自然や生物多様性の問題は複雑であり、地域特性も極めて高…
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週刊エコノミスト
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