⑦源流を知る/2 財政・金融政策の功罪 前田裕之
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「動学的確率的一般均衡(DSGE)モデル」や「現代貨幣理論(MMT)」など、伝統的なケインズ経済学とは異なる視点からマクロ政策を分析する理論も生まれている。
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今回は経済政策のうち、景気を安定させる政策(安定化政策)の背景にある経済理論や仮説を取り上げる。政府が財政政策や金融政策を通じてマクロ経済に影響を及ぼすという発想はマクロ経済学の原点であり、源流はケインズ経済学にある。ケインズ経済学を批判する視点から生まれたのが、マネタリズムだ。日本のリフレ政策はケインズ経済学とマネタリズムの両方の考え方を反映している。
IS-LM分析
1930年代に世界大恐慌の波が広がると、英国でも失業者が急増した。経済学者たちは失業者が増えた原因は高すぎる賃金にあると考え、賃金カットを唱えた。当時の英国では、価格の調節機能に信を置く新古典派経済学が主流であり、失業は労働市場で賃金という価格が円滑に動かないために発生する現象だと主張した。
ジョン・メイナード・ケインズは新古典派の主張には納得せず、政府による大規模な公共事業の実施を唱えたものの、聞き入れられなかった。新古典派理論に対抗し、自説の正しさを裏付けるために執筆したのが『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936年)であり、ケインズ経済学の原典となった。
不況期には失業が発生し、機械や設備の利用が滞る。政府は財政政策や金融政策によって有効需要を増やし、失業や遊休設備を解消する必要があると説いた。
英国の経済学者、ジョン・ヒックスは、難解だとの評も多い『一般理論』のエッセンスを抽出した。財市場で総需要(有効需要)と…
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週刊エコノミスト
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