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教養・歴史 書評

夏バテと怪談の季節に中国の医学史/神話史の本を 加藤徹

 10年に1度の猛暑。夏バテの病気予防や、暑気払いの怪談話などへの関心がおのずと高まる。今回は、医学史と神話史の2冊を取り上げる。

 角屋明彦・橋本厳(いわお)著『淳于意(じゅんうい)の〈治療世界〉 上』(白帝社、1760円)は、中国医学の初期の伝説的な名医であった倉公こと淳于意の人生と医療カルテを、くわしく解説する。

 中国医学の黎明(れいめい)期には、黄帝派と扁鵲(へんせき)派の2派があった。両者の治療コンセプトは違った。神話時代の伝説の天子・黄帝を奉ずる一派は、自然治癒力を重んずる「天の治療」。春秋戦国時代の超人的な名医・扁鵲を奉ずる一派は、体全体のバランスの回復を重んずる「全の治療」。前漢の天才的名医・淳于意は、両者を統合し、「気」を整える「流れの治療」のコンセプトを構築した。

 前漢の文帝は、初代皇帝・劉邦の息子だが、心やさしい名君だった。文帝は、史上屈指の名医である淳于意に質問し、患者を治療した具体例やカルテについて、熱心にたずねた。文帝もまた、建国直後の国家の未熟さ、不安定さという社会の「病」を治す為政者だった。

 古代中国の医療は、門外不出の秘伝が多い。が、文帝が名医と対談してくれたおかげで、淳于意の医療カルテについては、司馬遷の歴史書『史記』に収録され、今に伝わる。本書は、『史記』の現代語訳だけではカバーしきれない中国医学の解説も加えている。本書はまだ「上」だ。「下」の刊行が待たれる。

 袁珂(えんか)著、佐々木猛訳『中国神話史』(集広舎、13200円)は、中国神話学の大家であった袁珂(1916〜2001年)の代表作の翻訳だ。日本語の「神話」は古代の神話を指すが、中国で…

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週刊エコノミスト

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